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いつものパンとスープ。
おかずにはふかした芋が付く位。
肉なんて年単位で口にしていない。


深刻な食糧難である今、
質素な食卓に文句を言う者は誰もいなかった。


アルミンはトレーを持ち、
エレンとミカサの姿を探した。

借りていた本の返却期限が
今日であったことを思い出し、
先程まで一人
図書室に本を返しに行っていたので、
二人は既に席に着いている筈だ。


キョロキョロと首を左右に動かす度、
アルミンの金糸の髪が
さらさらと揺れた。

大きな蒼い瞳を縁取るような
長い睫毛は、彼女の愛らしさを
際立たせている。




「よお。今から飯か?」




不意に後ろから声をかけられる。
振り向いた先には、
104期訓練兵団の同期である
ジャン・キルシュタインの姿があった。

自分より大分上にある瞳を見上げ、
アルミンはニッコリと笑う。




「うん。そうだよ」




「俺も今からだ。
あっちで一緒に食わないか?」




そう言って彼が指差した角のテーブルは
まだ誰も座っていない。
ラッキーだ。


エレンもミカサも、
もう食べ終わってしまったかもしれないし、
こう見えてジャンは成績優秀で
訓練兵団を6位で卒業した。
中でも立体機動の成績が
飛び抜けて良かった筈だ。

この機会に色々とアドバイスをして貰おう。

グラスに水を注ぎながら
アルミンが頷こうとした瞬間、
二人の間に割って入ってくる人影があった。




「おせーぞアルミン」




不機嫌なオーラを隠すことなく
エレンはアルミンを見下ろし、
彼女の持っていたトレーをひょいっと受け取る。




「エレン!」




「あっちに席とっといた。行くぞ」




顎で指し示した先でミカサが片手を上げる。

ジャンの姿などまるで見えていないかのように、
無視を決め込むエレンを見て、
アルミンは苦笑いを浮かべる。


この二人、どうやってもウマが合わない。
訓練兵団に所属していた3年間、
二人は顔を合わせただけで
取っ組み合いの喧嘩を度々していた。
今この瞬間もジャンの怒りは爆発寸前。
米神に青筋が立っている。

背後で殺気立つジャンに
勿論エレンは気付いているが、
構うことなくアルミンを誘導する。

随分遅かったな、また本借りてきたのか?
なんて、他愛もない話をしながら。



「…おい待て、この駆逐野郎」



「…あぁ?」




地を這うような声と共に
行く手を阻むジャンのことを
とうとう無視できなくなったエレンは、
その金色の大きな眼でジャンを睨み付ける。

睨み合う二人は、揃って悪人面だ。
特に目付きが悪い。
人を殺せそうな目、と表したら
流石に失礼だろうか。




「アルミンは俺と飯食うって言ってんだろうが」




「はぁ?いつも通り俺とミカサと食うに
決まってんだろ」




「へっ…そうやってお前は…いつまでも
アルミンとミカサのケツ追っかけるつもりか!?」




「なに!?」




「いつまでもそうやって2人にくっついてろよ!
ってかお前実は女なんじゃねーの!?」




「…テメェ…黙って聞いてりゃあ!」



ギロリと音がしそうな程
凶悪な視線を向けられても、
ジャンは全く臆することなく鼻で笑う。
傍らに居るアルミンは
既に仲裁を諦めたらしい。
一旦火のついたエレンを止めるのは
至難の業だと、長年の付き合いで
彼女は学んでいた。


拳を握り締め、殴り掛かろうとした
エレンの動きを止めたのは、
ジャンの静かな一言だった。




「そのまま調査兵団にも
二人を巻き込むつもりだろ」




あと数センチで右の拳が
ジャンの頬に届く。
そんな距離でエレンの拳はピタッと止まる。




「…………!」




不覚にも、その一言は
鋭いナイフのように
エレンの心にぐさりと突き刺さった。
呼吸を忘れる程。
すぐ隣でアルミンが息を呑む音が聞こえた。


しんと静まり返ってしまった食堂で、
誰もがジャンの声に耳を傾けている。



「俺が内地に行きたいだけの…
平和ボケしためでたいヤツだと思ってんだろうが…
違うな。俺は誰よりも現実を見てる」



訓練兵団を6位の成績で卒業したジャンは、
迷わず憲兵団に志願しようとしていた。
巨人の足音に怯えることなく、
内地で安全に快適に暮らせるなら、と。
しかし、そう思うのには明確な理由があった。



4年前…巨人に奪われた領土を奪還すべく
人類の人口の2割を投入し、
総攻撃を仕掛けた。
その結果、その殆どがそのまま
巨人の胃袋に直行した。
巨人を一体倒すまでに
平均で30人は死んだ。

その現実を目の当たりにして、
ジャンは悟ったのだ。





「もう十分わかった。人類は…
巨人に勝てない」





突き付けられた現実。
人類の砦という美名のために
この端っこの街に留まる理由なんてない。




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