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本部の窓を突き破って現れた3人の姿を見て
一足先に本部に到着していた
ジャンは言葉を失う。
ちょうど、仲間の死を利用して
ここに辿り着いた自分を
責めていたところだった。




「お…お前ら…!!」




どうやってここまで、と聞こうとした瞬間
緊張の糸が切れたコニーが
アルミンの背をバシバシ叩き始める。




「やったぞアルミン!!お前の作戦成功だ!!」



「痛い!!痛い!!」



「やったぞー!ぎりぎり着いた…!!」




涙を浮かべて無事を喜ぶコニーを
苦笑しながら宥めているアルミンの隣で、
肩で息をしているミカサに
ジャンは近付いた。




「お…お前…生きてるじゃねぇか!!
一体どうやって…」



ガス切れで落ちていくミカサを後ろで見ていた
ジャンは、正直もう助からないと思っていた。
しかし、今目の前にいるミカサは無傷だ。
近くを巨人共が彷徨いていたあの状況下で
一体どんな手を使ったのだろうか。
疑問符を浮かべるジャンに対し、
ミカサは無言で割れた窓の外を指差す。


彼女が指し示す先には、15m級の巨人が居た。




「あの巨人」




「………!?」




そいつは、他の巨人達とは異なる
意志の強い眼をしていた。




「あの巨人は巨人を殺しまくる奇行種だ!
しかも俺達には興味がねぇんだってよ!!」




未だ興奮が冷めやらぬ様子で、ミカサの代わりに
コニーが早口で説明を始めた。
彼が語るに、
あの黒髪の巨人の周りの巨人共を
コニーとミカサの二人で排除し、
補給所に群がる巨人の元まで誘導してきたという。
この作戦立案はアルミンが担当した。




「巨人が巨人を排除しただと…?」




信じられない話だが、実際に生きてここまで
辿り着いた3人の姿が、
それが真実だと証明している。




「アイツが奇行種でも、何でも構わないんだ…」




散々叩かれた肩を撫でながら、
アルミンは真剣な眼差しをジャンに向けた。
彼女が時折見せるこの目は、
普段穏やかで優しいアルミンが胸の内に隠し持つ
鋭い刃を彷彿とさせる。




「ここであの巨人により長く暴れてもらう…
それが、現実的に僕達が生き残るための最善策」




疲労の色を見せるアルミンは
それでも立ち上がると、
影に隠れていた兵士に補給室の場所を尋ねる。
既に巨人の侵入を許してしまった補給室に
近付くことは不可能だと知らされると、
アルミンは暫し思案した後、
一度補給室の中を見たいと申し出た。




「き、危険だよアルミン…!近付いたら巨人達が」




「どのみち、ガスを補給をしないと
ここから出られない…そして巨人に食われて死ぬ」




「………っ、」




「補給室を見せて」




頑なにそう言うアルミンに、補給班の面々は
一様に顔を青くさせる。
巨人の標的にされるかもしれない所になんて
行きたがる者は誰一人としていない。

しかし、彼女の後ろから声を掛けた人物が
一人だけ居た。




「…大丈夫?アルミン」




久しぶりにその声で名を呼ばれて、
アルミンの思考回路は停止する。




「…なんだったら、僕がついていくよ?」





ーーーー…ベルトルト。





心の中でアルミンは彼の名を呼んだ。
しかし、声には出せなかった。
それでも振り返り、身長差のおかげで
大分上の方にある彼の顔を見上げる。
ベルトルトは緊張した面持ちで
アルミンの返事を待っていた。



ちゃんとした言葉を交わしたのはいつ振りだろう?


一年振りくらいだろうか。




「……大、丈夫…」




「アルミン、私が行こう」




小刻みに震える声でなんとか声を振り絞ると
彼女を心配したミカサが助け船を出す。



…大丈夫、君の助けなんて必要ないよ。



それがアルミンが出した答えであり、
ベルトルトは傷付いたように下を向いた。
気まずい雰囲気の中
アルミンは彼の姿を横目で追うと、
ライナーがベルトルトの
肩を小突いている所だった。
皆の兄貴分であるライナーのことだ、
まぁ元気出せ、とでも言っているのだろう。




…訓練兵団に入団して1年半が経過した頃。
アルミンは同じ104期生で
1つ歳上であるベルトルトと
初めての恋に落ちた。
エレンやミカサに知られたら大変だからと、
2人が恋人同士だということを
知る者は誰もいなかった。

穏やかな2人の恋は順調に進み、
初めての口付けは、付き合って一月が経った頃
確か、人気のない資料室でのことだった。
背が小さいからキスすると首が痛い、と
照れたように笑うベルトルトを見て、
顔から火が出そうになったのを覚えている。


月の光だけが頼りの薄暗い部屋で
2人は人目を憚り逢瀬を重ねた。



…ベルトルトに、これ以上を許してもいい。



アルミンがそう思ったのは、
付き合って半年が経過した
冬の寒さが身に凍みる頃のこと。

彼もきっと先に進みたいと思っているに違いない。
アルミンは、何故かそう思っていた。
今思い返せば、なんて馬鹿な女なのだろうと思う。

何故なら、いつも以上に激しい、
蕩けそうな口付けの後で、
ベルトルトはこう言ったんだ。




『……ごめん、アルミン』




とろんとした目をベルトルトに向け、
紅潮した頬を隠しもしないで。
彼が、君と繋がりたい、と
言ってくれるのを待っていた。

馬鹿みたいに。

指が食い込む程強い力で両肩を鷲掴み、
ベルトルトは囁くように言ったのだ。






『………今までのこと、忘れて』



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