4


優しい手で頭を撫でられると
全てを赦されたような気になる。
かつての仲間を陥れた罪も、
人類の敵をとれなかった罪も。
深い愛情すら感じる手付きに
うっとりと目を細め、アルミンは自ら
リヴァイの頭を引き寄せるように腕を回す。




「へいちょう…」




口付ける寸前に彼を呼び、
そこで漸く目を閉じる。
アルミンが自分からキスを求めてくるのは珍しく
それだけ彼女の心が参っているのだと
リヴァイは察すると
慰めるかのように優しく触れるように
唇を落とした。
啄むようなキスを何度も続けていると、
アルミンが強請るようにリヴァイの後頭部を
抱き寄せてきたので、
口内にそっと舌を忍ばせると、
彼女はそれを受け入れ自らのものを絡ませてくる。
密やかな水音と漏れ出る吐息だけが
整然とした室内の熱を上げる。

壁外に赴くということは即ち
死地に赴くことと同意だとリヴァイは思っている。
何度も生きて壁の中に戻ってくる
自分が言うと説得力に欠けるが、
壁外調査の生存率を挙げれば皆納得するだろう。
それでも、リヴァイにとって
命を懸けて壁外調査に赴くより
何も出来ずに壁の中で
彼らの帰りを待っていることの方が恐ろしかった。
怖いなんて感情は欠落したと思っていたのに
もう二度と信頼する仲間や部下に、
アルミンに会えないかもしれないと考えると
指先の震えが止まらなかった。
自分の命なんかより、アルミンの命の方が大切だ。
自分はいつ死のうが悔いなどないが、
彼女には生きていてほしい。
まだ自分の半分程の年月しか生きていない
アルミンを見送るなんて、
余りにも残酷過ぎるだろう。
肌蹴かかっていたバスタオルを剥ぎ、
アルミンの左胸に掌をのせ
そこには無い筈の心臓の音を確かめる。
素肌に直接触れたせいか
ぴくんと反応を示すアルミンの身体がいとおしい。
リヴァイはゆっくりと唇を離し
今夜は殊更優しく抱いてやろうと
自分の下で息を乱している彼女に視線を落とすと
彼女が大粒の涙を流していることに気付き
一瞬、呼吸を忘れる。




「大丈夫か」




柄にもなく動揺して、こんな薄っぺらな言葉しか
掛けられない自分に嫌気がさす。
頬を流れ落ちてくる涙の粒を指で拭ってやると
アルミンはその手を掴み、
嗚咽を漏らしながらも此方を見上げてきた。
至近距離で見つめる彼女の顔を綺麗だと思った。
笑っていても泣いていても、怒っていても
何かを考え込んでいても、
アルミンは他の誰よりも美しい。




「兵長、僕…!取り返しのつかないことを…!」




言い終わる前に、アルミンはわぁわぁと
子供のように泣き出した。
リヴァイはすぐに彼女の肩を抱き、
頭を撫でてやる。
寒くないように毛布を一緒に被り、
額と額をコツンと合わせ、彼女の言葉を待った。




「エレンを、助けに行く途中でした…っ、
僕は…壁外だというのに油断していたんです、
刃を構える暇もなく、
巨人に襲われそうになった…!」




補食しようと迫り来る巨人の顔を
鮮明に思い出すことが出来る。
恐らく一生忘れられそうにない。




「その時、近くに居たエルヴィン団長が…
僕を助けてくれました…!
…右腕と、引き換えに…!!
だから、エルヴィン団長の腕を奪ったのは、
僕なんです…!!」




ごめんなさい、と
泣きじゃくるアルミンの話を聞いて
リヴァイは瀕死で帰ってきたエルヴィンの姿を
脳裏に思い浮かべる。
彼のボロボロになった姿を見るのは
初めてのことで、リヴァイも虚を突かれたが
それでも冷静でいられたのは
エルヴィンがリヴァイ以上に
自分の命に執着が無いと解っているからだろう。
世界の真相を知るためには手段を選ばない男、
それがエルヴィンだ。
時に非道とも思える作戦を練り、その結果
多大な犠牲を払おうが突き進む事を止めない。

僕のせいです、どうか罰を、と
痛々しい声を上げるアルミンの背を撫で
リヴァイは彼女の耳元で囁く。




「お前が帰ってきてくれて、俺は嬉しい」




リヴァイ自身も、エルヴィンの駒に過ぎない。
それも最強の。最終兵器と呼ばれる駒。
いつかは彼の盤上で
切り札として使われるのも解っている。
そして、その戦では自分がいないと
勝機が無いということも解っている。
だからこそ、自分はエルヴィンと対等で居られる。




「…エルヴィンに、お前を頼むと言ったのは俺だ」



「…僕の命より、エルヴィン団長の右腕の方が、
人類の未来には必要ですっ…!」




「おいおい、そんなこと誰が決めた?」




頼むからそんな悲しいこと言わないでくれよ、と
溜め息と共に声に出せば、
アルミンは鼻を啜りながら目を合わせてくる。
少女の泣き顔に庇護欲をそそられ、
濡れた頬に軽くキスをしてやる。
細い髪を掻き分けて耳たぶを食めば
アルミンの身体は微かに震えた。




「お前が生きて戻ってきてくれた」




「んんっ、」




「だから俺は、また戦える」




そう告げると、アルミンは目を見開いた。
大きな瞳は、彼女を慈しむように
優しく目を細めるリヴァイを映した。




「アルミン」




熱を含む声で名前を呼び彼女を押し倒し、
首に吸い付くと、アルミンは、あ、と声を漏らす。
白い肌をまさぐり、悦ぶ場所を丁寧に触れれば
少女の泣き声はいつしか嬌声に変わっていた。






back
121/120


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -