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こういう時に手を貸す素振りさえ
見せてくれないのが、
エルヴィンらしいと思った。
これがリヴァイなら、舌打ちをしながらだが
手を引いたり肩を貸したりしてくれる。
エルヴィンは一切そういうことをしない。
それでも不思議と人を導く力がある。




「巨人化の力があっても
壁外じゃ他の巨人の脅威に晒されるようだし、
あれだけ戦った後だから
エレンほどじゃなくても…
えらく消耗してるんじゃないか?」




憲兵団の兵士の証言によると
女型の巨人の正体であるアニも
調査兵団の第57回壁外調査後、
寝込んでいたと聞く。




「彼らの目的地をウォール・マリアの
向こう側だと仮定しようか。
さらに…その長大な距離を渡り進む体力が
残ってないものと仮定してみよう。
どこか巨人の手が届かない所で
休みたいと思うんじゃないか!?」



巨人が動かなくなる夜まで。



話を聞き、エルヴィンは納得がいったように
大きく頷いてみせる。




「夜までにこの森に着けば…
まだ間に合うかもしれないな」




「そうだよ!すぐに出発してほしい…、」




負傷した自分は居残り組だ、と
悔しそうに顔を歪めるハンジの目に
此方に向かって駆けてくる
アルミンとミカサの姿が映り込む。
視線はそのままに、ハンジはエルヴィンに
かろうじて聞こえる程の小さな声で
ある提案をする。




「アルミンとベルトルトの話は聞いてる?」




「ああ…リヴァイから」




「そう。見る限り、どうやらベルトルトは
アルミンに未練タラタラらしいから…
もしかしたら彼女はあいつらにとって
最大の切り札になり得るかもしれない」




この場にリヴァイが居たら
即刻削がれそうな台詞を吐くと、
エルヴィンの蒼い目がぎらりと光る。
トロスト区に置いてきたリヴァイは
状況を正確に伝えてくれたが、
アルミンのことを随分気にかけていた。
アイツはベルトルトとかいうガキに
狙われてるかも知れねぇ、と
ピリピリしたオーラを纏い吐き捨てる彼を見て
エルヴィンも今のハンジと同じことを考えた。

彼女は使えるかもしれない、と。




「…上手く、利用させてもらうよ」




ハッキリとそう言ったエルヴィンを見上げ
ハンジは額をおさえる。
とてつもない自己嫌悪に陥り吐き気がした。




(ごめんね…リヴァイ)




何だかんだ言って、貴方が一番情に厚い。
部下想いで、仲間を死なせないように
壁外調査では細心の注意を払う。
どんな状況に於いても
恋人を一途に愛する気持ちを忘れない。
兵士長という役目を担いながらも
彼は人間として大切なものを失っていない。
私達と違って。



彼が今、世界中の誰よりも愛する少女を
駒として使おうとしている自分達を見たら
何て言うのだろう。
此方が言い訳する暇もなく
殺されるかもしれないな。
…いや、それはない。
リヴァイはきっと、
気心知れた仲間である私達を殺すこともできない。
強いて言えば審議所でのエレンみたいに
ボコボコにされるくらいだろう。





「エルヴィン団長!」





戦友に想いを馳せている間に、
いつの間にかすぐ側まで来ていたアルミンとミカサは
2人の前に立つとビシッと綺麗な敬礼をした。


年若いながらも、彼女達は公に心臓を捧げた兵士。

だから、その命を人類のために使うことに
誰も反論は出来ない筈だ。
他ならぬリヴァイもその内の1人なのだから。

右手を左胸に当てる仕草を見て
ハンジは自分自身にそう言い聞かせていた。







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