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信用、なんて言葉は商人の世界では冗談を言う時にしか使われない言葉だ。それに呆れて物も言えないというのもあるが、ディモは悉く自分の予想を裏切ってくるこの人類最強の兵士に驚いていた。


この男が、そんな人間臭い言葉を交渉の場で使ってくるとは思わなかった。


茫然としているディモに対し、リヴァイは胡座をかいた片足を立て、静かに語りかける。



「俺は今あんたと…ディモ・リーブスと話をしている。あんたの生き方を聞いてるんだ、あんたはどんな奴だ?

あんたの部下や家族、街の住民を死なせて…敗北するか。人類最高の権力を相手に戦うか。

どうせ正解なんかわかりゃしねぇよ…好きな方を選べ」



…こんな交渉は初めてだ。

生き方だと?

ディモは混乱していた。

リーブス商会は強大な力に屈し、中央憲兵の指示通りに行動するしかなかったが、たった今調査兵団から提示された条件はそれに比べて余りにも手緩い。



「は…素人が…。条件をすべて聞かずに契約する馬鹿がいるか?」



「おっと失礼した。3つ目だ」




恐らく最後にとんでもない要求をされるに違いないと踏んで、ディモは身構える。しかしリヴァイの口から淡々と告げられたその内容に、拍子抜けする羽目になった。




「今後リーブス商会が入手した珍しい食材・嗜好品等は優先的に調査兵団に回せ。…紅茶とかな」




妻の好物だ、としれっと告げるリヴァイと、「すばらしい条件じゃないですか会長!!」と声も荒げるサシャ(彼女は食材という単語に反応した)に、ディモは脱力する。

リヴァイの出した条件を噛み砕いて整理してみると、これからお前達には調査兵団の傘下としてクーデターに参加してもらうが、その後の食い扶持は俺たちが持ってやるから安心しろ、ということだ。

とんだ大馬鹿野郎だと思いながらも、ディモ・リーブスは肩を震わせて笑った。




「…あんた、気に入ったよ」




長年商売人として生きてきて人を見る目に長けているディモだが、リヴァイは"信用"に足る人物だと判断したらしい。ニヤリと笑って右手を差し出してきたディモの手を、リヴァイも握り返す。

固い握手を交わしながら、ディモはリヴァイをまじまじと見た。



「まさか…平然と巨人共をぶった斬り真っ赤になって帰ってくる兵士長が、こんな人間臭ぇ男だとは思わなかったよ」



「…まぁ、汚ぇ血はなるべく浴びたくねぇんだが」



「はは、違いねぇ!いやしかしあんな美人なカミさんがいるとはなぁ…」



もう長ぇのか?と問われ、リヴァイは立ち上がりながら答える。この男はどうやら話好きらしい。商人なのだから当然か。



「…いや、まだ会って一年も経ってない…」



そして交際を始めたのは2ヶ月程前だ。そもそも、二人はまだ正式な夫婦ではないのだ。そこまで明けっぴろげに話すつもりは毛頭ないが。

班員を集め、次の行動に移ろうとするリヴァイの後ろでディモも立ち上がり、門の上で煙草を揉み消しながらポツリと呟いた。




「一見何の価値もねぇこの世界で、自分の手で護らなきゃなんねぇもんを見つけた…
あんたは運がいい」





ーー…かくして、リーブス商会との交渉は成立した。

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