( 6/7)


連れてきたのはトロスト区前門。いや、元・前門。もしくは人類極南の最前線。あの世とこの世の境目。

その場所を調査兵団はこう呼んでいる。人類が初めて巨人に勝利した場所。そして…人類の無力さを証明する場所。

門の上から街を見下ろし、煙草を吸いながら腰を下ろすディモの傍らにリヴァイは立つ。



「中央憲兵との交渉の内容と、あんたらの目的が知りたい」



単刀直入にそう尋ねてきたリヴァイを見上げ、ディモは皮肉な笑みを浮かべる。



「交渉?そんなものは無い。命令され従った。俺らの目的は"すべてを失わないために命令に従う"だ」



しかし夜襲も拉致も失敗した。リーブス商会はすべての財産を何らかの罪状で王政に没収され、従業員とその家族は路頭に迷う。おまけに会長と数人の部下は口封じのため、何らかの事故に遭って死ぬだろう。




「一ついいことを教えてやるよ旦那。奴等は頭が悪い」



班員は少し離れた場所で二人の会話を聞いていた。
倉庫の見張りにはアルミンとジャン、そしてシャオがついている。



「普段巨人相手に殺し合いしてるような奴らに、俺らチンピラが何とかできるわけねぇだろってんだ、馬鹿だね奴らは!」



だははは、と豪快に笑うディモを見下ろし何かを思案した後、リヴァイはその隣に腰を下ろした。

どうやら交渉が始まるらしい。



「……そんな馬鹿共に大人しく殺されていいのか会長?」



「あ?」



距離を詰めて話をしてきたリヴァイを、ディモは臆することなく見据えた。リヴァイとこうやって目と目を合わせて話が出来ると言うだけで、この男の肝が据わっていることが解る。




「馬鹿だが人類の最高権力者共だ。お前らだって服すら着れねぇ馬鹿に食い殺されてんだろうが」



「…なるほど確かにそうだ。だが俺らは巨人を殺すこともできる。巨人と同じだ、どうせ死ぬなら試してみればいい」



「だめだ」



「なぜ?」



「失敗して死ぬ部下が増えるだけだ」




無駄死にだけはごめんだ。するのもさせるのも。
リヴァイもそれには同意する。エルヴィン相手に声に出して言ったこともある。軽く頷いた後、リヴァイは敢えてディモの神経を逆撫でくるような言葉を選ぶ。



「…気にするな。どのみち同じだ」




「…何だと?」




声を低めたディモの目を見てから、リヴァイは眼下に広がる閑散とした街に視線を移す。下から乾いた風が吹き、リヴァイの黒髪を揺らした。



「このトロスト区…あんたの街は破綻寸前だ。だがそれにしちゃまだ人がいる。それはリーブス商会、あんたらが人と仕事を結びつけているからだ。しかしこのままではリーブス商会が消滅し、この街はとどめを刺され完全に機能しなくなる」



その場合、路頭に迷うのはリーブス商会の従業員だけではなくなる。言いたいことを理解したのか、ディモは顰め面で煙草の灰を払った。



「あぁ…そうなるだろうな…お前らがエレンとクリスタをよこさねぇせいで、人がごまんと死ぬだろう。俺の部下もこの街の住民も、俺の家族も……」



最愛の家族の顔を思い浮かべたのか、ディモの顔は悲痛に歪む。ついさっき、私情でディモの部下に暴行したばかりのリヴァイも、もし彼の立場だったら同じ顔をしたかもしれない。シャオというかけがえのない存在を手に入れた今なら、この男の気持ちが解る。




「…それで?俺の部下や家族、この街の住民を餓死させねぇためなら人類の奇跡をくれるってのか!?」




…そこで、リヴァイは本題に入った。






「その通りだ。エレンとクリスタをお前らにやる」







「…は?」






エレン、という名に離れた場所でも耳聡く反応したミカサは、その内容を理解すると愕然とし「リヴァイ兵士長!?」と駆け寄った。

離れた場所で見張れ、との命令を守らないミカサをリヴァイは睨み付けるが、こうなったミカサには何を言っても無駄だと、眉を寄せながらも構わずに話を進める。



「ただし条件を3つ受け入れろ。1つ、リーブス商会は今後調査兵団の傘下に入り中央憲兵や王政・法に背くこととする」



「な…!?」




傘下?王政に背く?
こいつらは戦争を始めるつもりか?





「2つ、リーブス商会は調査兵団を心の底から信用すること」




「し…信用だと…?」

PREVNEXT


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -