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エレンが巨人化しようとしているのをペトラは目敏く見つけ、悲鳴を上げるかのように制する。
「エレン!?何をしてるの!!それが許されるのはあなたの命が危うくなった時だけ!!
私たちと約束したでしょ!?」
実の姉のように、いつもエレンを気にかけてくれるペトラの声が届き、エレンはいつものように指を噛み千切る事が出来ない。
苦痛な表情を見せるが、それでも口元から手を離さないでいると、リヴァイが意外な言葉を口にする。
「エレン。お前は間違ってない。やりたきゃやれ」
「…兵長!?」
自己判断に委ねるといった意を示すリヴァイに、ペトラは絶句する。
「お前と俺達との判断の相違は経験則に基づくものだ。だがな…そんなもんはアテにしなくていい。選べ。自分を信じるか、俺やコイツら、調査兵団組織を信じるかだ」
俺にはわからない、とリヴァイは普段よりトーンを落とした声で続ける。
「自分の力を信じても…信頼に足る仲間の選択を信じても…結果は誰にもわからなかった…」
今までの人生で、何度も選択を迫られた。
どちらを選んでも、必ず大切な何かを失った。
それを何度も繰り返しても、結局何が一番正しかったかなんてわからなかった。
人類最強なんて持て囃された所で、失ったものは何一つ戻ってこなかったのだから。
「だから…まぁせいぜい…悔いが残らない方を自分で選べ」
選択を迫られ、エレンは必死に考える。
どっちだ…!?
どうすれば、護れる?
大切なものを。大切な人を。
動きを止めてしまったエレンに、左隣を駆けるペトラが、涙を浮かべて弱々しく声をかけてきた。
「エレン…」
ペトラの泣き顔を見て、エレンの目蓋の裏に、あの日の古城でのやり取りが鮮明に思い出される。
巨人化実験後の夜。
古城で皆は、お前を疑った代償だと指を噛み、まるで化け物みたいな俺に対して言ってくれた。
あなたを頼るし、あなたも頼ってほしい。
私たちを信じて。
「信じて…」
ペトラの頬を一筋の涙が伝うと、エレンの体がカッと熱を持って震えた。
「…進みます!!」
そう叫んだ直後、エレンはギュッと目を閉じて自問自答する。本当に?これでいいのか?
信じて進むと答えた。きっとペトラは喜んでくれるだろう。しかし、エレンのその選択のせいで断末魔の叫びが途切れる事はない。
本当にこうすることが正しかったのか?
これは俺の本心か?
…いや、そうじゃない。
そうだ…俺は…
"欲しかった"
新しい信頼を。
あいつらといる時のような、心の拠り所を。
もうたくさんなんだ、化け物扱いは。
仲間外れは、もう……。
だから、仲間を信じることは、
正しいことだって
そう思いたかっただけなんだ。
そっちの方が、
都合が良いから。
悩んだ末に出した答えの、その中に宿る本心に気が付いて、エレンは途方に暮れた。
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