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右翼側が壊滅的との伝達が入ったにも関わらず、エルヴィンは撤退の指示を出さない。

それどころか目的地である旧市街地は南の筈なのに、先程から進路は東のままだ。




「どうなってるんだ…?」



状況が把握出来ず、思わずエルドは不安を口にする。エレンを動揺させたくはないが、エルヴィン団長が一体何をしようとしているのかさっぱり解らないのは此方も同じだ。



「このまま行くと陣形はあそこにぶつかるな…」



この辺りの地図が頭に入っているグンタは、視界の端っこに現れた木々の姿を見て険しい表情を浮かべる。



見えてきた…巨大樹の森が。

壁内・壁外に点在する巨木群で、ある地区を境に局所的に自生し、樹高は80mを超える。
調査兵団にとっては、壁外遠征において巨人の驚異から身を守る重要な拠点となっている。


前方から「中列・荷馬車護衛班のみ森に侵入せよ」との伝達を受け、リヴァイ班は巨大樹の森に入っていく。



(右翼側…)



敵は右翼側から来ている。ということは、あの偽の作戦企画書で、右翼側にエレンが居ると知らされている班に、内通者が居る可能性が高い。

今回の壁外調査の裏の目的について、シャオが思考を巡らせていると、視界の悪い森の中で不安の色を隠せないエレンはリヴァイに問い詰める。


「兵長!!ここ森ですよ!?中列だけこんなに森の中に入ってたら巨人の接近に気付けません!どうやって巨人を回避したり荷馬車班を守ったりするんですか!?」



「わかりきったことをピーピー喚くな。もうそんなことできるわけねぇだろ…」



「え!?」



リヴァイ以外の6人はいつ死んでもおかしくないこの現状に顔を真っ青にさせている中、彼だけはいつも通りの冷静さを崩さない。



「周りをよく見ろ。この無駄にクソデカい木を…立体機動装置の機能を生かすには絶好の環境だ。シャオ、喜べ。訓練の成果を存分に発揮できるぞ」



「………っ」



表情を引きつらせるシャオに、エレンは憐れみの目を向ける。それを鼻で笑い、リヴァイは前を見据えたままエレンに言い放つ。



「そして考えろ…お前のその大したことない頭でな。死にたくなきゃ必死に頭回せ」



「………!」



この状況を理解している人間はこの班に居るのだろうか?自分を囲む先輩達の表情を見る限り、その可能性は低かった。もしかしたらリヴァイ兵長でさえも、エルヴィン団長の目的を把握していないのかもしれない。


しかしこんな状況でも、足を止めるわけにはいかないのだ。


極度の緊張と恐怖のあまりバクバクと鳴っている鼓動を感じながら、エレンが手綱を強く握り締めた、その時だった。



ゴォォォ、という重低音が森の中に響き渡る。



「な…何の音…!?」



「すぐ後ろからだ!!」



洞窟を通り抜ける風の音のような、押し寄せる強い波のような音。今まで聞いたことのない音を耳にして、全員に緊張が走る。


…何かに追われている?




「お前ら、剣を抜け」




リヴァイがついに具体的な指示を班員に出す。

何かに追われている。
その何かは、考えなくても解る。



「それが姿を現すとしたら一瞬だ」



「「「………!」」」



全員、無言で剣を抜く。この剣だけが、自分の命を護ることが出来るかもしれないのだ。

シャオの手は震えていた。
…恐い。
今までで一番、恐い。
圧倒的な死への恐怖がシャオを支配する。
震えているのは手だけではなかった。
歯がカチカチと鳴っている。

そして恐怖を感じているのはシャオだけではない。

リヴァイは表情が見えないので解らないが、自分の周りに居る皆も、鏡のように同じ表情を浮かべていた。





ーー…そして、それは現れた。



背後から。



地響きを鳴らして。





「あっ…!」




現れたのは、女型の巨人。
14m級。
すごいスピードで此方に向かってくる。

殆どの巨人は男性型だが、細くて丸みを帯びた珍しい外見に、シャオの目は釘付けとなる。



「シャオ!!前向いて走りなさい!!」



後ろを向き減速したシャオを見てペトラが叱責すると、瞬時にリヴァイが場所を変えてシャオの後ろにつく。



「グズ!てめぇは俺の前に行け、さっさとしろ!」



「す、すみません!」




慌てて馬を加速させ、シャオは班の先頭に立つ。リヴァイはシャオの安全を考えるのと同時に、真の目的を知っている彼女なら先頭に立たせても問題ないと考えた。このまま森を真っ直ぐ進めば、エルヴィン達が罠を仕掛けている筈だ。


しかし、予想以上に女型のスピードは速かった。
女型はエレン達のほんの数m先まで近付いている。

このまま逃げ切れるとは思えなかった。




「兵長!!立体機動に移りましょう!!」



危機感を感じたペトラがそう叫んだ直後、女型に斬りかかる影が幾つか視界を過る。

背後より増援。

しかし希望の光は一瞬で消えてなくなる。



女型は左手で項を抑えながら、右手で兵士達を潰していく。木に叩き付けられ即死する者、握り潰される者。増援の兵士達は次々と肉塊へと変わっていった。

目の前で繰り広げられる惨殺に、エレンは言葉を失った。

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