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しかし次の瞬間、ジャンの予想に反してシャオはニッコリと笑った。



「信じてくれてありがとう…!
エレンもきっと、そう思ってるよ」



「……は?」



いやいやいや思ってない思ってない、何でそうなる、とエレンは破顔する。それにシャオは、「え?違うの?」と大きな目をクリクリさせてエレンを見上げた。

可愛いけど違う、可愛いけど、とエレンはブンブンとすごい勢いで首を左右に振る。



「誰がこいつにありがとうなんか…!」



「だって、この子…エレンに命を懸けるって言ってくれたよ?」



「言ってません!」



「言ってますー」



頬を膨らませ不満げな顔を作るシャオに、エレンの気が抜けていく。何だって一々可愛いんだ、この人。この調子ではまともに言い争うことも出来ない。謎の大ダメージを受けガクッと肩を落とすエレンに、ミカサは絶対零度の眼差しを向ける。


シャオはもう一度ジャンに視線を移す。

ビクッと肩を揺らすジャンにシャオは、言ってもいい?と確認する。確認の意味が解らず、ジャンは首を傾げた。

この男の子は言葉足らずで誤解されることが多いだろう。でもこの子はきっと素直で、誰よりも仲間想いだ。勿論、エレンのことも大切に想ってくれている。


シャオはジャンの台詞を補足して、彼が言いたかった言葉をエレンにもう一度告げる。




「俺はエレンを信じて命を懸けるから、その分エレンも頑張ってくれよ、頼むぞ?」



少しジャンの口調を真似してそう言ったシャオの言葉を聞いて、辺りは静まり返った。



「って事でしょう?ジャン」



シーンとする面々を全く気にせず、シャオがふわりと笑って問いかければ、ジャンは「ま、まぁ……」と曖昧に答えた。

まさに彼女の言う通りだったがここで、そうです俺はこいつを信じてます!なんて死んでも言いたくない。何せ二人は訓練兵の時代から犬猿の仲なのだから。



「な、何だよ、そういう意味だったのか…俺、てっきりジャンがエレンを苛めてんのかと思ったよ…」


坊主頭の少年がぼそりと呟くと、エレンは真っ赤になって「俺がこいつに苛められるタマか!?」と激昂する。



「この馬面!偉そうに発破かけてきやがって!百年早ぇんだよ!!」



「あぁ!?百年後に生きてられると思ってんのか馬鹿が!まぁお前は余裕で死んでるだろうな、この死に急ぎ野郎!」



「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください〜…」



口論を始めた二人の間に、黒髪ポニーテールの少女が仲裁に入る。しかし久しぶりに本音でぶつかり合える相手を得た二人の罵詈雑言は、留まることを知らない。どんどんエスカレートしていく喧嘩に、周りが止める事を諦めた頃。



「そういえば、皆の名前教えて?エレンとミカサとアルミン以外!」



別次元からやって来たかのようなシャオの一言によって、ジャンとエレンの拳がぴたりと止まる。二人の視線の先には平和ボケしたようにニコニコ笑っているシャオの姿があった。


この人今ここに居たよな…?
俺達が喧嘩してんの見てたよな…?



恐らく同じことを考えた二人を前に、あっ、とシャオは手を叩く。



「ごめん、私がまだ名乗ってなかった。私は調査兵団特別作戦班所属、シャオリー・アシュレイです。シャオと呼んでください!」



花のような笑顔と共にハキハキと自己紹介をし、きっちりと敬礼するシャオに、その場に居る全員が姿勢を正す。

そして皆のリーダー的存在である金髪の青年が、高らかに声を上げた。



「我々は104期調査兵団!
ライナー・ブラウンです!」


「コニー・スプリンガーです!」



「サシャ・ブラウスです!」



「べ、ベルトルト・フーバーです!」



「クリスタ・レンズです!」



順番に次々と自己紹介をして、最後にジャンの番となった。


ジャンは笑顔で自分を見上げているお団子頭の女性を見下ろして、右手を左胸…心臓に当てた。




「…ジャン・キルシュタインです」




深い水面のような、吸い込まれそうな瞳に魅せられて。ジャンは静かな声で名を告げた。
ふっくらとした薄紅の小さな唇が弧を描くのを見ただけで、何故か頬が熱くなる。この人は背が小さくて幼い顔立ちだが、もしかしたら割と歳上なのかもしれない。何故なら、同期の女兵士にはない色気がある。



「一週間後の壁外調査…初めてで恐いだろうけど、みんな、一緒に居るから…。

エルヴィン団長も、リヴァイ兵長も。


だから…頑張ろうね」




新兵を安心させるようにそう言ってくれた彼女の言葉を、人知れず巨人を恐れて毎夜震えていたジャンは、心の中で噛み締めた。

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