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打ち寄せる波に足をとられながら、好奇心旺盛なハンジは臆することなくずんずん進んでいく。




「うへぇぇ!これ全部塩水なの!?」




信じらんない、と頭を抱えれば、今度は足元にいる謎の生物に釘付けになる。




「あっ!!何かいる!!」




兵服が濡れるのも気にすることなくしゃがみこむハンジに、リヴァイは静かに近づいた。




「おいハンジ……毒かもしれねぇから触るんじゃねぇ」




キラキラ光る水面を指でつついているハンジは、立ったまま注意深く観察しているリヴァイを見上げ、大丈夫だよリヴァイ、と笑った。


シャオの口癖を真似たつもりだったが全然似ていなかったようで、思いっきり嫌そうな顔をされる。




「ほら見てこれ、貝殻!」



「あぁ?」




「海の宝石!お土産に持って帰ろう!」




耳に当てると波の音がするらしいよ、と禁書に記されていた知識をハンジは披露する。手渡された白い巻き貝を、リヴァイは暫く眺めた後、引ったくるようにして受け取る。


掌の中のそれをまじまじと見つめ、興味本意で貝殻を右耳に当てる。




「どう?」




「…………よくわからん」





「あはは、そうだよねぇ!たぶんそれ波の音じゃなくて、自分の体の音が貝殻に跳ね返って聞こえてるだけなんだよねぇ」



初めて見たものにも自身の推論を述べてくるハンジに感心しつつ、リヴァイは手の中の宝石の固い感触を楽しむ。初めて目にして触れるもの。生きていくにつれ年々少なくなっていく楽しみを、リヴァイが共有したいと願うのはこの世界にただ一人だけ。いや。




「……おいハンジ。これもう一個ねぇのか」




波の音にかき消されそうな声だったが、ハンジの耳にはちゃんと届いた。片目の視力を失った分、聴力が良くなったのだろうか。




「探せばあるんじゃないか?おーい!貝殻探すの手伝ってー!」




片手を振り上げてハンジが呼んだのは、第2の苦労人であるジャンだ。まだ若く博識でもない彼はモブリットのようにはいかないが、それでもよく気が回り判断力も高い彼をハンジは高く評価していた。ミカサとくっついて浮かれているジャンに下ネタをぶつけてからかうのも愉しい。

溜め息を吐きながら此方に近付いてくるジャンだったが、「シャオ達にお土産なんだ!」と言えば、一瞬で真顔になり、貝殻探しに没頭していた。こういう所も彼が好かれる所以である。



「悪ぃな、ジャン」




「!いえ……」




声を掛けられ顔を上げたジャンはやはり悪人面だが、その瞳の奥は優しい。






「シャオさんのためなら」






そう言って頬を綻ばせる少年は、将来良い父親になるだろうと思い、リヴァイは静かに微笑んだ。







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