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ハッと顔を上げた先には、左目を包帯で覆ったハンジの姿があった。戦闘時常に身に付けているゴーグルも無く、いつもと雰囲気が違う。




「ハンジ!!」




無事だったのか、と安堵した瞬間、ハンジはリヴァイに一言「シャオは生きてる!」と早口で告げた。

その報せを聞いたリヴァイは、一度呼吸を止める。理解するのに数秒を要した。


茫然と立ち竦んでしまったリヴァイをよそにハンジは、四肢を失ったベルトルト、横に並んだ重傷の二人、泣き崩れるエレンの姿を見て、今何が起きているのかを瞬時に理解する。




(何ってことだ……!)








どっちを選ぶ?








自身に問い掛けたのはただの一度だけだ。


ハンジの頭の中に、答えは一瞬で出た。





肩を震わせてアルミンの横で嗚咽を漏らしているエレンに、ハンジは寄り添う。その肩に手を乗せると、エレンはびくりと身体を揺らした。
何と言ってやれば良いのだろう。慎重に言葉を選び、ハンジは躊躇いながらも口を開く。





「……私達にはエルヴィンがまだ必要なんだ」





「うわぁぁああぁぁ!!」





「エレン……、調査兵団はほぼ壊滅状態!団長まで死んだとなれば……!!人類は象徴を失う!!」





彼を説得するには、どう言ってやればいい?
アルミンを見捨てる理由を、どう紡いだらいい?そんなこと、どんなに頭が良くてもすぐに思い浮かばない。


それでも口下手なリヴァイの代わりに、ハンジは思い付く限りのそれらしい理屈を言い立てる。




「あの壁の中で希望の灯火を絶やしてはならないんだよ!!」




「それはアルミンにだってぇ……できる……!」




「確かにアルミンは逸材だ……、だが我々の戦いはこれからもずっと続くんだ!!まだエルヴィンの経験と統率力が……」



必要なんだ、と続けようとしたが、エレンに突き飛ばされ声が詰まる。ごろんとその場に尻餅をつき、ハンジはふと我に返った。




(……私は何を言ってるんだ)




こんな建て前を言ったところで、純粋な15歳の少年を説得出来るわけがないじゃないか。


化けの皮を剥がさないと。


全てでぶつかってくる少年には、此方も胸の内を全て明かさないといけない。




そう悟った瞬間、ハンジの口からは弱々しい声が漏れる。






「私にも……生き返らせたい人がいる」





素直な胸中を言葉にして口に出したら、ハンジの右目からも水滴が垂れる。

脳裏に思い浮かんだのは、モブリット。

ついさっき失ったばかりの、長年連れ添ったハンジの部下だ。超大型巨人の爆発を察知し、モブリットはハンジの身体を引っ張り、徐に涸れ井戸の中へ落とした。突然の彼の行動に驚き、頭を思い切り逸らして見上げた先の彼は、安堵の表情を浮かべていた。


それがハンジが見た、モブリットの最期の姿だった。



分隊長は本当に世話のやけるお人だ、と一日に何度も愚痴をこぼしつつも、モブリットは常にハンジの傍に居てくれた。ハンジの行動を、考えを瞬時に理解し、それを助け、支え、時には行き過ぎた行動を牽制した。ハンジが次期団長を指名される程の戦果をあげられたのは、彼の存在があったからだと胸を張って言い切れる。


その彼が、もうこの世界の何処にもいない。




「……調査兵団に入った時から、別れの日々だ……」




のろのろと身体を起こし、ハンジは動きを止めたエレンを背後から抱き締める。



こうやって、モブリットのことを抱き締めてやれば良かった。ただの一度でも。

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