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数多の巨人の返り血を浴びたリヴァイの姿は、背筋が凍るほど禍禍しいものであったが、エレンは歓喜の声を上げて涙をひと粒流す。


エルヴィンに討伐を託された獣の巨人は、あと一歩のところで車力の巨人に奪われた。リヴァイの身体は限界を訴えてきたが、その身体に鞭を打ち壁の中まで追ってきたのだ。



そこで見た、目を疑うような光景。



巨人化を解いたエレンが、四肢を失ったベルトルトを拘束している。彼らは彼らだけの力で、あの超大型巨人を仕留めたのだ。


驚愕するリヴァイの目に入ったのは、エレンの足元に転がる黒焦げの遺体。囮にでもなったのだろうか、超大型巨人の熱風を浴び続けた身体は、髪は溶け皮膚は爛れ、一目でそれが誰なのか判別するのは不可能な程損傷している。


……いや、まだ死んではいない。微かに身体が動いている。





「兵長!!注射を早く!!」





ケニーが遺した注射器はリヴァイが持っている。対象を巨人化させる薬が入った注射器だ。これはただ巨人化させるだけではなく、瀕死に至った人間をも蘇らせることができる。





「アルミンを巨人にして……ベルトルトを食わせるんですよ!!早く注射をください!!」




必死の形相で叫ぶエレンの顔には、筋繊維のあとがくっきりと残っている。巨人化能力を宿した人間がどんな苦しみを背負うか、エレンは身をもって理解している。その重責を幼馴染みであり親友のアルミンにも背負わせるのは心苦しいが、命が助かるのならもう何だって良い。



この黒焦げのガキはアルミンか……。




虫の息であるアルミンをぼんやりと見下ろし、リヴァイは頷いて注射器を手に取る。





ーーーーその直後、二人が予想だにしない展開が待ち受けていた。





橙色の屋根の上、アルミンに歩み寄るリヴァイを呼び止めたのは、聞いたことのない少年の声だった。




「リヴァイ、兵長……!」




やっと追いついたと苦しげに呻く声の持ち主は、呼吸を乱して屋根の上に這い上がってくる。生気を失った街の中心で、リヴァイとエレンの二人は、突如現れたその少年に一斉に目を向ける。


その顔にエレンは見覚えがあった。彼は新兵のフロックだ。エレンと同じ104期生だが彼は駐屯兵団に入団し、調査兵団には奪還作戦の前の兵士募集で編入してきたばかりの新米調査兵士。



エレンはフロックに声を掛けようとしたが、フロックはエレンの姿などまるで見えていないかのように、血走った目でリヴァイを真っ直ぐに見据えている。



そしてその背に背負っている人物の顔をリヴァイに晒す。





ーー……静かな辺りに響いた、息を呑む音。






「エルヴィン団長が重傷です。腹がエグれて…内臓まで損傷してるため…血が止まりません…。

例の注射が役に立てばと思ったんですが…どうでしょうか?」








金色の双眸は見逃さなかった。


フロックの言葉を聞いた、
リヴァイの瞳が揺れたことを。




屋根の上に降ろされたエルヴィンの口元にリヴァイは手をかざし、彼にまだ息があることを確認する。しかしフロックが言うように獣の巨人の投石を受けたエルヴィンの身体はボロボロで、いつ死んでもおかしくはない状態だ。




「……兵長……?」




嫌な予感がして、エレンは自分でも驚く程低い声でリヴァイを呼ぶ。重傷なのはアルミンも同じだ。頼りない呼吸が止まってしまうのも時間の問題だ。


仰向けに寝転がる瀕死の二人を交互に見下ろし、リヴァイは注射器を握り締め、立ち尽くす。




……注射をどちらに打つか。




どちらかを生かし、どちらかを見捨てなければならない。二つに一つ。リヴァイは選択を迫られた。





『これを使用する際はどんな状況下かわからない…つまり現場の判断も含めて君に託すことになりそうだ。状況によっては誰に使用するべきか、君が決めることになる。任せてもいいか?』





エルヴィンが言っていた言葉の意味を、今この瞬間に漸く理解した。



エルヴィンはこのことを懸念していたのだ。


誰か一人しか助けられない状況下で、その判断を君に任せても良いか、と。







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