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思えば長い旅だった。


こんな辺境の島に、まだ子供だった四人は、重い使命を背負ってやって来た。



その内の一人は巨人に喰われて死んでしまったが、三人は壁を破り、壁の中に潜入することに成功した。


戦士達の名はライナー、ベルトルト、そしてアニ。





(……アルミン……)





三人は幼馴染みだったが、長い時を共に過ごし、成長していくにつれ、ベルトルトはアニに対し特別な感情を抱くようになった。それが恋愛感情だと自覚したのは、訓練兵団に所属して暫く経ってからのことだ。


しかし元々消極的なベルトルトは、想いを打ち明けることが出来ない。寧ろ自分の気持ちを悟られないように、アニが近くにいても平静を装っていた。

悶々とした日々を過ごし、2年が経過した頃。

ベルトルトはあることに気付いた。


一匹狼の気がある筈のアニが、アルミンが隣に座るのだけは許していること。口数が少ないアニが、アルミンとだけは時折談笑していること。



もしかしてアニは。……いいや、まさか。
だって、僕らは此処に送り込まれた戦士で。

彼らを悲劇に陥れた張本人じゃないか。



心の中で必死に否定するも、アニのまるで恋する乙女のような顔を見てしまうと、懸念は確信へと変わる。



ーー……アニは、アルミンのことが好きなのだと。





「ベルトルト!!そこで止まれ!!」





叫びながら一人で現れた金髪の少年を見て、ベルトルトは目を見開く。



彼の言うことを聞く訳ではないが、その声を聞いてベルトルトの体は無意識に動きを停止した。

そしてまじまじとアルミンの姿を凝視する。


サラサラの金髪に大きな目。相変わらず、男だというのに羨ましい程に綺麗な顔立ちだ。訓練兵に入団したての頃は女と見分けがつかなかったが、今では程よく筋肉もつき、数々の死線を潜り抜けた精悍さもある。顔だけ見れば、成る程、あのアニが惚れてしまうのも頷ける。



しかし、ベルトルトはアルミンの本性を知っている。

この男、綺麗なのは顔だけだ。






『……アニを置いて行くの?』





エレンを奪い返そうと飛んできたアルミンが放った言葉に、ベルトルトは衝撃を受けた。





『アニなら今……極北のユトピア区の地下深くで、拷問を受けてるよ』





死なないように細心の注意が払われるなか、様々な工夫を施された拷問を受けている、と。


他でもないアニが恋した男は、歪んだ笑みを浮かべ、自分に向かってそう言ったのだ。その瞬間、ベルトルトは怒りのせいか身体中の血液が逆流したような錯覚を覚えた。



ーーー悪魔め。



お前を想ってアニがどんな苦しみを味わったか、知らないなどとは言わせない。


ストヘス区でのアニ拘束作戦の実行班は、お前だったろう、アルミン。





「話をしたら!!全員死んでくれるか!?」





通りを挟んで反対側の尖塔の上、呼びかけに応じたベルトルトのその表情に、アルミンは動揺した。



彼は見たことのない表情で、此方を睨んでいる。





「僕達の要求はわずか二つ!!エレンの引き渡しと!!壁中人類の死滅!!」




「…………っ、」





強い口調と鋭い双眸。大人しくて優柔不断なベルトルトしか知らないアルミンは、その変わり様に怯んだのか1歩後退る。




「これが嘘偽りのない現実だアルミン!!もうすべては決まったことだ!!」




「だ……誰が!!そんなことを決めた!?」




冷や汗が背中を伝うのを感じながらも、アルミンは必死で反論する。





「……僕だ。僕が決めた!!君達の人生はここで終わりだ!!」





……どっちが本性だ?


今まで猫を被っていたのか?
それとも、虚勢を張っているだけか?


……わからない。

いつだって僕らは知らなすぎる。




ギリ、と拳を握りしめ、アルミンは深く息を吸う。


エレン奪還戦の時、アニの名前を出したらベルトルトが酷く取り乱したのを覚えている。彼女を利用するようで心苦しいが、今一度試すしかない。


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