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罪の意識から逃れようと頭を振ったジャンの目が、近くに立っているシャオを捉えた。
シャオの性格上、泣いている104期生を見かけたら真っ先に飛んできて、背中を擦ってくれる筈なのに、彼女が此方に寄ってくる気配はない。
シャオは屋根の上に、直立不動で立っている。
その大きな目は、まるで泣いているジャンやコニー達が見えていないかのように、真っ直ぐにライナーだけを見つめている。
いつも笑っているのであまり見慣れないが、無表情のシャオは不気味な程綺麗だった。
「まだだぞ!装備を整えて次に備えろ!!」
隙だらけの104期生を諌めるのはスヴェンだ。
まだ戦いは終わってねぇ、とサシャとコニーの頭を軽く小突く。スヴェンには同期を殺した経験などないから、彼らの絶望は計り知れないが、今この場では一瞬の油断が命取りになる。
『全員、仲間の命より自分の命を第一に考えろ』と、スヴェンは部下に口酸っぱく教えていた。
嗚咽を漏らしているジャンの背中を叩いた後、チラリとシャオに視線を向けると、彼女は目を見開いていることに気付く。
「動いた!!まだ生きてます!!」
恐れおののき、悲鳴のようにシャオがそう叫んだ瞬間、鎧の巨人は鼓膜が破れるかと思う程の咆哮を上げる。地鳴りのようなその叫びは、これから何か良くないことが起きるということを示唆していた。
混乱する兵士達はがむしゃらに雷槍を撃ち込もうとするが、血相を変えたアルミンがそれを制する。
「ダメです!!ライナーから離れてください!!上です!!」
「え!?」
徐にアルミンが指差したのは、空の上だ。そんなところに何がある、と皆首を傾げるが、内地側から何かが飛んでくるのが解る。遠目から見るとそれが何かはよく解らないが、樽のようなものが確かに此方に近づいてくる。
放物線を描くその物体を呆然と眺めている兵士達に、アルミンは更に声を張り上げる。
「上から超大型が降ってきます!!
ここは丸ごと吹き飛びます!!」
耳を疑うようなその台詞に、兵士達は逃げる気力もなく、呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
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