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ライナーの動きが止まった。
膝立ちで、岩のように動かない。
雷槍が効いたのだ、と兵士達は歓喜したが、まだ作戦は終わってはいない。先頭の二人が奇襲を掛け動きを封じた後、ハンジが率いる後衛がライナーの項目掛けて総攻撃を仕掛ける。
「行くぞ!!」
ハンジの声に引っ張られるかのように、後衛達も次々と雷槍を放つ。
こんな機会が二度あるとは思えない。今ここで決めるしかない。シャオも雷槍を撃つことに躊躇はしなかった。
ドドドド、という次々と起きる凄まじい爆発音が周囲に轟く。屋根の上に離脱した兵士達は皆目を凝らし、立ち込める煙の中のライナーを探す。
「やっ…やったぞ!!効果ありだ!!」
項の“鎧”が剥がれかけている。
「ほ…本当に、雷槍が効いた…!!」
今にも本体であるライナーの姿が確認できそうな程抉れた項を見て、サシャの顔は真っ青になる。雷槍が効いたのは喜ばしいことだが、虫の息の同期の姿を前にして、正気を保てるのかわからない。
クーデターでは人を殺めた。
それで心が死にそうな程辛い思いをしたのに、今回の作戦では、かつての仲間を…友人を、殺さなければならない。
「もう一度だ!!雷槍を撃ち込んで止めを刺せ!!」
非情にもそう告げるハンジの声に、サシャとコニーは返事も返せずに視線を合わせる。その瞳には迷いの色がくっきりと浮かんでいた。
ライナー。
3年という長い月日を共に過ごした同期の姿が、どうしても記憶から消えてくれない。
しかし半ば放心状態の二人の尻を叩いたのは、二人と同じ104期生であるジャンであった。
「お前ら!こうなる覚悟は済ませたハズだろ!?やるぞ!!」
雷槍の訓練の前に、ハンジに言われている。ライナーとベルトルトを殺さなければならないと。
皆その時に覚悟した筈だ。
それでも弱腰になる仲間達を鼓舞しつつ、飛び立ったジャンの顔色も、しかし真っ白だった。
「「「うぉおおおおぉ!!!」」」
ーーー…これ以上、考えてはダメだ。
過去を振り返るな。
相手は5年前、ウォール・マリアを破壊した巨人。
そしてずっと、仲間のフリをして潜んでいた敵。
迷ってはいけない。
104期の兵士達は皆自分自身にそう言い聞かせ、叫びながらライナーの頭を狙う。
確実に殺せる場所を狙って。
うなじ下、縦1m横10cmを狙って。
ーーー…数分後、鳴り響いていた爆発音が止み、辺りは静かになった。もくもくと上がる煙の隙間から現れた鎧の巨人の姿に、兵士達は絶句する。
皮膚が剥がれた項からは、本体が剥き出しになっていた。ライナーだ。…恐らく。いや、鎧の巨人の本体なのだからライナーであることは間違いないのだが。
ライナーの顔が、
頭がない。
「やったぞ!!頭を吹っ飛ばした!!」
「鎧の巨人を仕留めたぞ!」
何人かの兵士が嬉々として歓声を上げるが、変わり果てたライナーの姿を見て、サシャとコニーは膝から崩れ落ちる。
「うぅ……」
こんな状況なのに、泣いている暇などないのに。頬を伝う涙を止める術がない。頭を抱えて自らが犯した罪を責めるかのように泣き続ける二人に、ジャンは大股で詰め寄り声を荒げる。
「なに泣いてんだてめぇら!?オラ!!立て!!まだ終わっちゃいねぇぞ!!まだライナーを殺しただけだ!!」
態と言葉にすることで、自分達が何をしたかを明白にする。現実から目を背けないように。
「泣くな!!俺達が殺したんだぞ!?」
自らもボロボロと涙を流しながら、ジャンは二人の襟首を掴み無理矢理立たせる。身体中が震えている。立っている感覚が掴めない。
今、どんな気分か解るか?
最悪だ。最悪だよ、同期を殺すってのは。
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