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『そうだ。項の表面で爆発しても効果は望めない。必ず内側から爆発させなければならない。目標が顔を削りながら進んでいるのなら、開く口すらないかもしれない』




トン、と指差したのは、シャオが描いた"超超大型巨人"の模写、その口元。




『それが今回の賭けだ』










ーーー…少し前のやり取りを思い出し、リヴァイは煙を上げる地上の固定砲を無表情で見下ろす。



「今回も俺ら調査兵団の作戦は博打しかねぇからな…エルヴィンの思いつくものは全てそれだ」



「ハハ…だけど毎度お馴染みの博打のおかげで、私達はここまで辿り着いたんだよ」



隣に立つリヴァイを見ず視線は巨人に釘付けのまま、宥めるようにハンジはそう言った。

あんなに大きな巨人も居るのか。シャオがスケッチしてくれていて助かった。此方が言わずともやってくれる、相変わらず何て良い子なんだ、と感動していると、ハンジの思考を読んだかのように、リヴァイはシャオの話題を持ちかけた。




「アイツの絵が上手いことは知ってたのか?」




質問の意図を探るためハンジはリヴァイへ顔を向けると、彼の視線は火薬をロープで包むシャオへと注がれていた。大事な人への贈り物を包装するイメージで、と104期生達に抽象的な指示を出すシャオに、ジャンやコニーは、それじゃわかんねぇよ、と眉を下げて苦笑している。




「…勿論、知ってたよ。実験で何回も描いて貰った。因みに、シャオは技術班に仲の良い人が居るから兵器にも詳しいよ」



「…そうか」





リヴァイは、シャオのことをまだ何も知らない。
これから長い年月を共に生きていくなら、焦らずにゆっくり知っていけば良いと普通の人間なら言うだろう。

…だが、自分は普通じゃない。異常だ。

いつ死ぬか解らない身であり、それはシャオも同様だ。共に調査兵団に身を置く兵士。あの巨人と対峙して、一時間後には死んでいるかも知れない。

そんな焦燥感のためか、彼女の知らない一面を垣間見るとリヴァイは柄にもなく動揺した。跡形もなく亡くなってしまう前に、全てを知らないと、全てを教えておかないと。


たった一枚の絵だけで、こんなにも息苦しさを覚えるなんて。



ぼうっとシャオの姿を眺めているリヴァイを見て、ハンジの胸は苦しくなった。



シャオは兵士としてこれからも戦場に赴くだろう。リヴァイは本当はそうさせたくないけれど、それがシャオの望みならと黙って目を瞑り、彼女の意志を尊重する。そして彼女が帰ってこれなかった時、彼はきっと後悔するんだ。無理矢理にでも、シャオを内地へと残していけば。自身の選択を悔やむんだ。




(シャオ、あなたには…もう戦ってほしくない)




それがリヴァイの唯一の望みなら。






火薬を包み終えた兵士達は、エルヴィンの指示で班を二つに分ける。




「では…リヴァイ、シャオ、ジャン、サシャ、コニー。あちら側は任せた」




「「「「了解!」」」」




敬礼をしつつ、四人はリヴァイの背を追う。ロッド・レイスはいつの間にか、壁のすぐそばまで接近している。辺りには兵士達の怒号と砲撃音が絶えず轟いていた。


髪を整えながら最後尾を走るシャオは、眼下に広がる光景を見て緊張の色を見せる。地上の大砲は更に効果が薄いようだ。壁上からの斜角にしても大して項に当たっていない。想像していたよりあの巨人の皮膚は頑強なのかと考えていると、指定されたポイントに着いたのか、先頭のリヴァイが立ち止まる。



その直後、強風が壁上の兵士達を襲った。





「熱っ!!」




風で体が揺らぐだけではなく、その風は巨人の熱をも運んできて、皮膚を焼かれるような感覚に兵士達はその場に蹲る。



「まずいな、風向きが変わった」



苦々しくリヴァイは呻き、どうにか目を凝らして壁上の駐屯兵団の様子を窺う。蒸気に包まれ視界をはばまれた駐屯兵達はやみくもに砲撃を繰り返していたが、その砲弾で巨人を仕留める事は出来なかったようだ。



ドォン、という音と共に足場が波のように揺れ、壁の上に巨大な掌が乗せられた。


巨人の手だ。




壁に両手をつき、街を見下ろすかのように姿を現したロッド・レイスを見上げ、周囲に居た駐屯兵団達、そして避難訓練だと聞かせれていた壁の中の住民達は、絶望に顔を歪ませた。




ーーー…巨人だ。




それは、5年前のあの日。シガンシナ区を襲う超大型巨人を見上げたエレン、ミカサ、アルミンが経験した恐怖と、全く同じものだった。

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