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ハンジが持っていた手紙は、レイス卿領地の調査報告書だった。エルヴィンから託されたものだ。そしてその報告書の中身は、5年前にレイス家を襲ったある事件の詳細が大半を占めていた。
ハンジは荷馬車にシャオとアルミンを呼び、詳細を語り始める。
「レイス家は五人もの子宝に恵まれていた。更に隠し子が一人」
領主と使用人との間に生まれたのがヒストリアだ。
「ウォール・マリアが破壊された日の夜に悲劇は起きた。世間の混乱に乗じた盗賊の襲撃によって、村にある唯一の礼拝堂が襲撃を受け、焼かれた挙げ句全壊したのだと」
そしてその夜礼拝堂では、ウォール・マリアの惨事を受けたレイス家が、一家全員で祈りを捧げていた。
「一家の主であるロッド・レイスを除く一族全員が盗賊に惨殺されてしまったんだと」
惨い話にシャオとアルミンは眉をひそめる。
「…それで、ロッド・レイスはヒストリアに接触を?」
家族を失ったレイス卿がとった行動ーー…隠れ家で聞いたヒストリアの過去に繋がるのだろうか。
「血縁関係か…その血にタネか仕掛けがあるってのか?」
荷馬車のすぐ後ろに馬をつけているリヴァイが、ハンジの話を聞いてそう尋ねれば、彼女の目はきらりと光った。自身の推論を語る時のハンジはいつもこの顔をしている。出会ってから今まででこの顔を何度見たか最早数えきれない。
「私が気になったのは礼拝堂が全壊したことにある!というのもその礼拝堂は木造ではなく大半が石造りの頑丈なものなんだ!」
「「!」」
その一言でシャオとアルミンは弾かれたように顔を上げた。この二人は本当に頭が切れる。最後まで言わなくても何を言いたいのか察してくれるので、話していて楽しい。エルヴィンとリヴァイの他にも良い話し相手が出来て、ここ最近のハンジは上機嫌だった。
「確かに…本当に盗賊の仕業ならさっさと逃げるべきだ」
「建物を破壊したのは巨人…?」
「しかもまた彼は自らの資産ですぐにその礼拝堂を建て直したんだって…何故だろう?これが私の早合点だとしてもこんだけ怪しければ十分、我々が今ここに向かう価値はあるはずだ!」
しかもこの報告書はエルヴィンに託されたものなのだから、その線が濃厚だ。調査兵団団長エルヴィン・スミスの頭脳に勝る者はいないと、ハンジは自信を持って言い切れる。恐らく、リヴァイも同じ気持ちだろう。そう信じて彼の顔色を窺うと、リヴァイは難しい表情をしながらも低い声で呟く。
「…その礼拝堂を目指すぞ」
…この日、エルヴィンの働きを経て現体制の崩壊が宣言された。それは、王都・行政区を兵団組織が制圧した直後、彼のために用意された処刑台の上で行われた。
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