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「これからコイツの体に聞いてみることにする…あいつらが出てきたら森の中には入れるな、周囲の見張りを頼む」




「了解」




シャオの表情が曇ったのが解ったが、リヴァイは気付かない振りをして、中央憲兵の男の襟首を引き摺り森の中へと連れていく。夜の森のひんやりとした空気と不気味な静けさが、今の自分の心情を如実に表しているようで嗤えた。


憲兵の男の体を大木に叩きつけるようにして投げてから、リヴァイは口元を歪める。




「いいヒゲだな、あんた」



地面に背を付け呻き声を上げる男を見下ろし、リヴァイは片膝をつく。




「エレンとクリスタはどこだ?」




「…、部下は殺したか?」




リヴァイの機嫌は右肩下がりであったが、これから手酷い拷問を受ける可哀想な男の質問には正直に答えてやる。



「残念だがあんたの部下は助けには来ない。あんまり殺すのも困りものだからな、暫くまともに歩けないようにはしておいた」



先程の調査兵団による奇襲で、中央憲兵は最早使い物にならなくなった。奴等は腿や脛を正確に狙って攻撃をしかけてきたので、生きていたとしても身動きはとれない。寝込みを襲われ油断していた中央憲兵達は、たった6人の調査兵団の奇襲により全滅したのだ。

リヴァイの返答を聞き、憲兵の男の目には沸々と嫌悪の色が浮かび上がる。




「…見たところ、あんたのお仲間は…女、子供…ばっかりじゃねぇか…こんな、物騒なことさせるたぁ、流石はリヴァイ兵士長……勇ましいことで」




城に乗り込んで来た連中も外で見張りをやっていた兵士も、皆年若く、女兵は三人も居た。彼らを人類最強と名高いリヴァイ兵士長自らが先導しているのだから、調査兵団も切羽詰まった状況であることが解る。

揶揄するように口角を上げる男の口元を目掛け、リヴァイは容赦ない蹴りをお見舞いした。


ゴツ、という鈍い音と共に、男の歯は砕ける。




「ッーーー!?」




「そうだな…しかも外の見張りの女は俺の妻だ。どうだ、笑えるだろ?」




片足をぐりぐりと口の中に突っ込み、自嘲の笑みを浮かべるリヴァイは、まるで悪の化身のようだ。耐え難い苦痛に両手でリヴァイの足首を掴む男を冷めた目で見下ろし、もう一度問う。




「まだまともに喋れる内に口を使った方がいいぞ。エレンとクリスタはどこだ?」




答えさせる為に男の口から足を引っこ抜くと、彼は噎せて血反吐を吐き出す。歯が抜け落ちた歯茎からは大量に出血していた。リヴァイは眉をしかめるが、そこに男に対する同情は一切混じっていない。
ただ、靴が汚れたことに対する嫌悪感しか、リヴァイの心を占めていない。


しかし、憲兵の男はリーダーを務めるだけあり、意外と根性を見せた。痛みにより生理的な涙を浮かべながら、リヴァイを睨み上げ呻くように言う。




「無駄なんだよ…お前らが…何をやったって、調査兵…お前らにできることは…この壁の中を逃げ回って、せいぜいドロクソにまみれてセコセコ生き延びることだけだ!!」



それも仲間を見捨ててな、と吐き捨て男は立ち上がる。驚いた、まだ立ち上がる気力があったとは、とリヴァイは無表情で感心する。




「お前らが出頭しなければ囚われた調査兵は処刑される…!!ただし…お前らが独断でやったことだと、その首を差し出すのなら…他の団員の命だけは、何とか助かるだろうがな」




喋っている内に徐々に冷静さを取り戻したのか、男は自分より随分と低い位置にあるリヴァイの顔を見下ろし、息を吐く。リヴァイの両肩に手を置き、これで立場が逆転したとでも言いたげな様子だ。

しかし、リヴァイはその提案をあっさりと拒否する。



「イヤ遠慮しておこう。お前はエレンとクリスタの居場所を言え」



「………!!」




予想に反しあっさりと仲間を見殺しにする道を選んだリヴァイに、男は愕然とした。しかし勿論これは情報を聞き出すための演技であり、本来リヴァイは部下を大切にする男だ。王政が調査兵団を根絶やしにする絶好の機会を、自分達数人の首程度で逃がすとは思えない。ただ揺さぶりをかけたのだと、リヴァイは瞬時に考えた。


そんなことを言っても無駄だと鼻で笑い、リヴァイは無言で男の身体を反転させ、力付くで腕を交差させる。



「さっきの質問に答えなかった分だ」




一応そう伝えてから、腕に力を込める。
バキ、という嫌な音と共に、憲兵の男の右腕はおかしな方向に曲がった。




「ぎぁあああああ!!!」




「うるせぇよ、エレンとクリスタの居場所を言え」




それ以外、特に言うことはない。しかし、この耳をつんざくような悲鳴は何とかしてもらいたいと、リヴァイは不快感を露にした。

口を割らないと甚振るように殺される、と漸く危機感を覚えたのか、憲兵の男は涙目で命乞いを始める。



「しっ、知らない!!本当に殆どのことは教えられてないんだ!!ケニー・アッカーマンはとても用心深い!!だから、こんなことをしても無駄だ!!」





「…アッカーマン…?」






ーー…それが奴の…ケニーの姓か?




疑問を口にした瞬間、自分を育てた男の人を食ったような笑い顔が、リヴァイの脳裏を過る。



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