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隣を窺うと、シャオも同じことを思ったのか、彼女の口角は僅かに上がっている。この子エレンみたい、と心の声まで聞こえてきそうな程分かりやすい表情だ。

しかし、幾ら中身がエレンに似ているとしても、そう簡単にリヴァイが頷く訳がない。



「ダメだ。お前に体制を敵に回す覚悟があるかなんて俺には計れない…お前の今の気持ちが本当だとしても、寝て起きたら忘れちまうかもしれねぇしな」



「そ、そんなことは…!」



慌てて否定するも、リヴァイは取り合ってくれず、くるりと背を向けてしまう。憧れの人から明らかな拒絶を受けがっくりと肩を落とすマルロを、可哀想に思ったのか、シャオは慌ててリヴァイに駆け寄っていく。



「兵長!あの子、きっと本気で私達に協力したいんだと思います!嘘が吐けるようなタイプには見えません」



「…成る程、アイツは嘘が吐けない馬鹿だとお前は言いたいわけか」



「そんな酷いこと言ってません!馬鹿正直だと言ってるんです!」



「おいおい、結局馬鹿って言ってるだろーが。気付け」



馬鹿馬鹿煩い二人のやり取りを、マルロは俯いて地面を眺めながら聞いていた。なに言い出すかと思ったら、馬鹿じゃないのアンタ、と隣に居るヒッチまで暴言を吐き出した。最悪な気分だ。

俺は入る兵団を間違えた。最初から調査兵団に入団していれば、こんなことには…。自身の過去の選択を悔いていると、不意に地面に影が差す。マルロは顔を上げると、彼の前には厳しい顔をしたジャンが立っていた。



「…お前はそうやって騙して、売って、憲兵で名を上げる気なんだろ?」



「……なっ、」



「俺にはわかる。お前らを信用できるわけねぇだろ」




仲間の御墨付きを貰う程の凶悪な面構えで、ジャンは銃口をマルロの額に突き付ける。強烈な殺気を感じて、憲兵の二人は縮こまった。




「何をしてるの!?銃を下ろして!」




不穏な気配を感じ、シャオは慌ててジャンを止めようとするが「待て」とリヴァイに片手で制される。



「いい」



彼女と目を合わせて短く言ったリヴァイはジャンを顎で差す。それで彼の言いたいことがすぐ解ったようで、シャオは瞬時に大人しくなる。




「信じてくれ…あんた達は人類を救うために戦ってるんだとわかってる…」



「はぁ?わかってるって、何をだ?どう考えたら劣勢の俺達が今から人類を救えるんだよ?」



馬鹿にしてんのか、とジャンは毒吐く。また馬鹿って聞いたな、とマルロは死の恐怖に脅えながら、ぼんやりと思った。

まだ生きているのに死人のような顔のマルロを見下ろし、ジャンは低い声で言う。



「兵長はお前らを逃がすつもりだった」



リヴァイ班がここを離れるまでは拘束するが、出発と同時に解放する。この二人の足より遅れるようじゃどの道無理な話だと、リヴァイは最もらしく言っていたが、本当のところは新兵に情けをかけたのだろう。昨夜の団欒で、リヴァイの為人は大体解った。ジャンの心に蔓延っていた、彼に対する不信感も消え失せた。




「だが、やっぱりそれは危険だ。俺の独断で殺すことにした」




ーー…だからこそ、力になりたいと思う。

多少手荒い真似をしても。
自らの手を汚してでも。

自由の翼を背に戦い続ける、この人みたいに。




「最期に何か言いたいことはあるか?何でもいい…お前の身ぐるみを剥いで殺そうとしてる俺達への恨み辛みでもいいぜ。どうせ、死ぬんだからな」



「………!!」



「ほら、まずはお前からだ、おかっぱ野郎…。一体なんでそんな髪型にしたのか俺にはイマイチ理解できねぇ」



身近に這いよる死への恐怖に、マルロはガタガタと震え出し、その隣に立つヒッチは直立不動で涙を流し始めた。

あのおかっぱ野郎失禁するんじゃねぇか?汚ぇな、と、リヴァイが耳打ちしてきたので、シャオは顰め面でリヴァイに顔を向ける。こんな時に何言ってるんですか、と咎める意で顔を向けたのだが、顔が近付いたその一瞬、


リヴァイの唇がシャオの唇に触れた。




「「!」」




彼の伏せた睫毛を久しぶりに(とは言っても数日だが)見たので、唇が離れた瞬間、シャオの顔は真っ赤に染まった。


ジャンの背後でこんなことが起きているとは知らずに、マルロは自分の人生を締め括る為の一言を絞り出した。




「……調査兵団が今もこうやって命を懸けて戦い続ける限り……俺はあんた達が人類を救ってくれると…信じてる………」



「……はっ、」




そりゃあ大層な期待をかけられちまった、と苦笑し、ジャンは銃を下ろす。その一連の行動を見て、自分は試されていたのだと悟ると、マルロは腰を抜かしたらしくその場にへなへなと座り込んだ。ヒッチは依然、石化したまま動かない。




「コイツの覚悟は証明できました、リヴァイ兵長」



「…ああ。よくやった」



「?どうしたシャオさん、顔赤ぇけど」




「な!んでも、ない……」




尻すぼみに否定するシャオを見下ろし、ジャンは首を傾げる。


キスなんて、もう数え切れない程しているにも関わらず、不意打ちにされるとこんなにも気が動転するものなのか。一人涼しい顔をしているリヴァイに腹立たしくもなる。






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