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エレンとクリスタを確保した。巨人化の力を使い果たしたエレンを洞窟に閉じ込めたのだ、とディモが中央憲兵に嘘の情報を流したのは今朝方のこと。

その情報を鵜呑みにした中央憲兵は、すぐに洞窟のある山道を馬車で急いだ。しかし昨晩からの豪雨による悪路の道を馬車で進むのは困難であり、道の途中、馬車は崖から転落したーー…



勿論、これは調査兵団による罠である。



崖下に潜んでいたリヴァイ班は、リーブス商会の協力により、ニック司祭を殺した帳本人であるジェル・サネスを拘束し拠点に連れ出すことに成功した。







◇◆◇◆◇◆









目を覚ますとそこは蝋燭の火だけが頼りなく揺れる暗い部屋だった。ひんやりとしたその部屋の中央で、サネスは両手首と腰を椅子に固定されていた。


今自分の身に何が起きているのか状況を把握しようと視線を泳がせると、見覚えのある顔がこちらを見てにこりと笑う。




「あ!起きたねサネス」




眼鏡をかけた背の高い女性は、調査兵団で分隊長を務めるハンジ・ゾエ。その隣に立っているのはかの有名なリヴァイ兵士長。彼は無言で鋭い眼光を此方に向け、手袋をはめた手でペンチを持ち、それをひけらかすように見せた。


近くにある棚の上に乗せられた道具には、サネスにも見覚えがある。釘、トンカチ、ピンセット。何の変哲もない工具に見えるが、それらがこれから本来の用途とは違う使われ方をするのは嫌でも解る。何故なら自分は長いこと、今の彼らの立場でそこに立っていたのだから。



自分は今から…この二人に、拷問される。



理解した瞬間、サネスの身体はサーッと体温を失い、小刻みに震え始めた。













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…ついに始まったか。



地下室から聞こえてくる叫び声に、テーブルを囲む104期生達の顔は強張った。一度聞いてしまったら耳に焼きついて離れない、恐怖におののく人間の声。

これから暫くは悪夢に魘されそうな予感がする。



「まったくよぉ…俺は巨人と殺し合ってるつもりだったんだが…いつの間にか敵が何なのかわかんなくなっちまってる。なぜ俺達はこんなことに手を染めてんだ?」



頭を抱え俯きジャンは苦い顔でぼやく。コニーは目を瞑り、声が聞こえないように必死で両耳を塞いでいた。



「…しょうがねぇだろ…俺達はクーデターやってんだよ…あの時の…団長の計画通りにな…」




王はエレンとクリスタを手に入れるためなら、形振り構わず権力を行使し、住民や壁の保全などまるで胃に介していない。このまま王の暴走を許してはいけない。このまま訳の解らぬまま、人類滅亡の日を迎える訳にはいかないのだ。


"我々の力で王政を打倒し、我々がこの壁に残された人類全ての実権を握る"



エルヴィンの手紙に記されていた文章を思い出すだけで身震いがしてくる。



「まだこんなもんじゃ済まねぇよ…多分」




冷静に状況を整理しながらもエレンの金色の瞳も揺れている。暫くしてエレンの隣に座るコニーは、耳をおさえていた手を離し、テーブルに拳を叩き付けた。




「兵長もハンジさんも、どうかしてる…!よく拷問なんて出来るよな、頭イカれてんじゃねぇのか!?」



「コニー!」



それ以上言わせないようにエレンは慌ててコニーの肩をおさえる。それにも構わずコニーは机に突っ伏してしまった。

気まずい沈黙の中、エレンはチラリと部屋の角に立つシャオに視線を送ると、彼女は無表情で静かに佇んでいた。



「私達って…もう反逆者なんですね」




沈黙を破ったのはサシャだ。

クーデターに失敗したら公の場で吊るされる。始めてしまった以上、もう後戻りは出来ない。



「…僕らはもう犯罪者だよ」



サシャの発言に同意するかのように語り始めたアルミンに、皆の視線が集まる。アルコールランプの灯りが照らすアルミンの表情は、酷く疲れているようにも見えた。



「今相手にしている敵は僕らを食べようとしてくるから殺すわけじゃない。考え方が違うから敵なんだ…。もしくは所属が違うってだけかもしれない…この先そんな理由で…人の命を奪うことになるかもしれない…」






…僕らはもう良い人じゃないよ。






アルミンがそう呟いた後、地下から虫唾が走るような叫声がこだました。


一斉に顔を歪め、不快感を露にする104期生に対し、シャオは一人俯き悲しそうに眉を下げる。


昨夜見たばかりのリヴァイの笑顔が脳裏を過る。目を伏せて僅かに口角を上げ、ふっと吐息を漏らすように笑う。


あれが彼の本当の姿なのに。




今にも泣き出しそうな顔をしているシャオに、ただ一人、ヒストリアだけが気付いていた。

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