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待ち合わせ場所にやって来たソーコを見て、銀時は年甲斐もなく胸を高鳴らせた。普段の隊服姿でも彼女は充分美しいが、ほんのり化粧を施し鮮やかな着物を纏っただけで更に美しさが増す。おまけに少し伸びた髪を結わえているので、白い項に瞳を奪われた。
ソーコの事だからいつもの調子で現れると思っていたのに、こんな不意討ちを食らうとは思っていなかった。年上の余裕を見せるつもりでいたのに、かなり動揺してしまっている。
「お、オッキー、どうしたの、いつもと違くね?」
しどろもどろにそんなことを言ってしまった。
ここは素直に褒めるとこだろーがァァ!!と、今更後悔しても遅い。
が、しかし流石は冷静沈着な沖田隊長である。
「へぇ、デートって話だったんでそれっぽくしてみたんでさァ」
いつものトーンで返されて銀時は若干冷静さを取り戻す。本当はソーコも緊張していたが、銀時はいつもの銀時だったので安心したのだ。
「いやぁそれにしてもオッキーが遊園地行きてぇなんて言うとは思わなかったわぁ。何か乗りてーのある?」
段々といつもの自分を取り戻してきた銀時は、行き先は決めていないがとりあえず歩き出す。
後ろからついてくるソーコの足音を聞いて穏やかな気持ちになった。
カランと鳴る下駄の音に合わせてやるように歩いてやる。女のペースに合わせて歩くなんて何年ぶりだろうか。
「旦那、あたい別に遊園地に来たかったわけじゃないんでィ」
後ろから控え目にそう言われて、まぁそーだろうな、と納得する。まだ十代だが落ち着いているソーコが、遊園地ではしゃぐ姿なんて想像がつかない。
「旦那にいくつか聞きたいことがあったんでさァ」
クレープ屋の看板を眺めながら、銀時はソーコの話に耳を傾けている。
「映画館じゃ喋れねぇし、町の甘味処じゃ誰かに見つかるかもしれねぇ。適度に雑音があって誰にも会わなそうだったんで遊園地にしたんでィ」
そう言われて思わずくるりと振り返る。
銀時は不服そうな表情だ。
分かりやすく不機嫌な顔をつくると、ソーコは慌てて弁解する。
「仕事じゃありやせんよ!」
「あったりめーだ馬鹿。こっちは本気で誘ったんだから本気で付き合えよバカヤローコノヤローオメー」
茶化してそう言うと徐にソーコの手をとって引っ張る。ソーコはバランスを崩しながらも、二人の距離は縮んだ。繋いだ手は暖かい。
異性と手を繋いでいる自分の姿を客観的に思い浮かべると、恥ずかしさで頬が赤く染まる。
耳まで赤くして俯いているソーコに気付かないふりをして、「さ〜てオッキーは銀さんの何が知りたいのかなぁ」と気の抜けた声で言ってやる。
繋いだソーコの手は、女らしからぬ手だった。
日々、刀を握っている手だ。
傷もあるし深爪だし、年頃の娘らしい手はしていない。
それでもその手をずっと握っていたいと思えるから不思議だ。
「…とりあえず、あっち行きましょう」
ソーコが指差したのは噴水や花壇が置かれている休憩スペースのような所だ。
近くの遊具で小さい子供たちが遊んでいる。
銀時は頷き、ソーコの手を引いたまま其方に向かった。
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