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地下への階段を下りて下りて、辿り着いたのが煉獄関。地下闘技場は満席で、中央のリングで闘う二人に観客は釘付けだ。

ソーコは壁に寄り掛かると、侍と鬼の面をした男の斬り合いを腕を組んで眺める。

隣に立つ銀時も、本物の血飛沫が舞う決闘を無表情で見ていた。


「…オッキー、デートにゃあ最適な場所じゃねーか」


「趣味の良い見せ物でしょう?」


鼻で笑ってみせると、銀時の顔から笑みが消えた。


「明らかに違法じゃねーか。お前それでも役人か?」


ごもっともな言い分、普段いい加減に生きている銀時だが、時として許せないこともある。
攘夷戦争を経て大人になった銀時は、こういった血生臭い争いに一際嫌悪感を抱くようになったのだ。
一言でも間違えればこの男は帰ってしまう、とソーコも笑みを消し、真摯に向き合う。


「役人だからこそ手が出せねェ」


その一言で、煉獄関は幕府も絡んでいると想像出来る。


「ヘタに動けばウチも潰されかねないんでね、これだから組織ってのは面倒でいけねェ」


そこで漸くソーコの言いたいことが読めてきた銀時は首をだらんと曲げ、うーんと唸った。
物分かりが早くて助かる。あと一息だと感じソーコは粘る。ずいっ、と距離を縮めて、大きな瞳で見上げて言った。


「アンタはあたいと同種だと思ってやしたぜ。こういうもんは虫唾が走るほど嫌いなクチだと…」


あれを見てくだせェ、とソーコが指差したのはリングの中心で金棒を持って仁王立ちする鬼。


「煉獄関最強の闘士、鬼道丸…まずは奴をさぐりァ何か出てくるかも知れませんぜ」


銀時は鬼道丸を指差すソーコをじっと見下ろしていた。隊服姿ではないソーコはさらしを巻いておらず、襟元から柔らかな白い肌が覗いていた。甘い香りも漂ってくる。


「こいつァあたいの個人的な頼みで真選組は関わっちゃいねー。ここの所在はあたいしか知らねーんでさァ」


華奢な少女は恐らくまだ男を知らない。
花見で土方と唇を合わせていたぐらいで、きっとそれ以上の交わりは未知の世界だろう。

抱きたい、と銀時は本能的に思った。

高杉のように他の女をこいつに重ねているのではなく、単純にこの女だけに、銀時は興味を持ち始めていた。


「だから、旦那…」


「んー愛しのオッキーの頼みなら、手ェ貸してやらんでもないけど?」


「…え?いいんですかィ?」


あまりにも簡単に了承してもらえたので、ソーコは肩透かしをくらう。煉獄関の闇を暴くなど、万事屋銀ちゃんの仕事にしてはハード過ぎやしないか。多額の報酬を用意しないと引き受けてくれないだろうと予想していたのに。

拍子抜けした顔を浮かべるソーコの顔をいつものように覗き込み、「ただし条件があらァ」と銀時は続ける。

やはりタダでとはいかないようだ。


「何でィ?」


少しホッとして安堵のため息を吐くと、見当違いの
返答を貰うことになる。



「オッキー、俺とちゃんとしたデートしてくれね?」



「…はぁ?」



ふざけているのかと怪訝な顔で見返せば、銀時は頬をポリポリ掻いて少し照れ臭そうな表情をしていたので唖然とする。どうやら彼は本気らしい。


「いや〜オッキーと手ェ繋いで歩くのが夢で…どこ行く?甘味処?遊園地??映画館???」


早くもデートの約束にこぎ着けようとしている。
暫く恋愛とはご無沙汰な男はこの機会を逃すまいと必死である。滑稽だ。ソーコのジト目にも気づかない。

しかし、丁度良かったのかもしれない。ソーコ自身、銀時には訊きたいことがあった。高杉との関係性、エンという女のこと…デートの最中に聞けばポロっと答えてくれる可能性がある。



「わかりやした、いいですぜ」


「…え?」


絶対に断られると思っていたのに、今度はソーコの方があっさりと了承した。
目を丸くして言葉を失っている銀時を気にも止めず、ソーコはこれからの作戦について話し始めた。
鬼道丸の勝利で試合は終わった。

ゆっくりしている時間は無いのだ。



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