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屯所を二周半くらいしたところで、庭にある物置小屋に飛び込むと、ソーコは勢い良く鍵を閉めた。
久しぶりに全速力で走ったせいで呼吸が乱れ、
激しく咳き込む。
こんなに身体が鈍っているなんて、と少なからずショックを受けた。これは明日から稽古に参加しないとこれから大変なことになる。

苦しそうに呼吸をするソーコを、新八は心配そうに見守る。その隣で、敵意剥き出しの表情を浮かべているのは、永遠のライバルである神楽。


「ふん、ちょっと走っただけで大袈裟アル。どうせか弱いところ見せて男子の目を引こうとしてるだけネ」


「神楽ちゃん、沖田さんは具合が悪いってさっき聞いたでしょ」


新八はこれ以上この狭い空間で争いが起きないよう宥めるが、それが気にくわなかった神楽はつんとそっぽを向いてしまう。
言われっぱなしではいられないし、何よりこの眼鏡にこれ以上気を遣わせるのは癪だったので、ソーコはいつも通り気丈に振る舞う。


「唾が変なトコ入っただけでさァ…おいチャイナ、悔しかったらお前もか弱い振りしてみたらいいだろィ」


「ワタシはそんなセコい手使わないヨ、いつも元気いっぱいで男子の目を引く女子の方が何万倍も魅力的ネ」


「あーそうですかィ。残念ながら一人も引っかけてないようで」


カチンときて神楽は拳を振り上げ、飛びかかろうとするが、慌てて手を広げた新八の壁に阻まれる。
神楽を嘲笑うかのように口元を歪めていたが、無理をしているのは目に見えて解る。
キーッ!と目を三角にしている神楽をなんとか宥め、新八はしゃがんでいるソーコの傍に座った。


実はここ最近、気になることがあったのだ。

あの祭りの後、テレビはテロのニュースで持ち切りだった。高杉一派のことも取り沙汰されていたし、それ以外にも、真選組の一番隊隊長が攘夷浪士の標的になり意識不明、という話題も持ち上がっていた。
多少大袈裟に報道されていたとしても、負傷して療養中だったのは本当だし、二ヶ月経った今も復帰していないのが解ると更に心配になる。
それ以上に気になっているのは、意外なことに銀時の反応だ。
あのニュースが報道されると銀時の目はテレビに釘付けになり、新八がたまたま同じ時間に居間でテレビを観ていた時も、様子がおかしかった。


『沖田さん大丈夫ですかね』


湯呑み茶碗を握りしめながら、痛々しい報道に眉を寄せる新八の向かい側、いつも通り長椅子に横になってジャンプを読んでいた銀時は答える。


『大丈夫に決まってんだろーが。殺しても死ななそうな奴だろ』


『確かにそうですけど…意識不明らしいですよ。相当手酷くやられたんじゃないかな』


女の子なのに、と最後に付け足すと、銀時は何が可笑しかったのか噴き出した。


『戦場で女の子扱いはエンが一番キレることじゃねーの?』


そう言って笑い出すが、新八は目をぱちくりさせた。新八は沖田の話をしているのに、今銀時の口から滑り出たのは見知らぬ人物の名前だ。
反応がないことにハッとし、犯したミスに漸く気付いた銀時は咄嗟に話題を変えたのだった。
それだけではない。
銀時は昼寝の最中によく魘されるようになった。
仕事がないとしょっちゅう呑気に昼寝を始めるのだが、あのテロの後から、寝ながら苦しげな表情で呟く名前は『エン』だ。

エン、エン、
悪かった、
許してくれ、と。


目覚めればいつもの銀さんなのに、眠っている時の別人のような容貌は一体何なのだろう。

今まで間抜け面で昼寝をしていただけに、その変化は新八を動揺させた。



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