▼2/5

祭り当日。
日が暮れると辺りには提灯が灯り始める。
幻想的な風景と食欲をそそる匂いに人々は皆笑みを浮かべ、ターミナル周辺は人でごった返していた。

祭りに参加する将軍の警護を任された真選組もまた、その現場に居た。

今回は過激派攘夷浪士の高杉晋助が江戸に来ているという情報もあり、いつもより数倍ピリピリしている土方に反し、他の隊士達は祭りの風景に浮き足立ち、穏やかな表情を浮かべている。
つくづく平和ボケした奴等だ…と、溜め息を吐くと同時に、隣で一人涼しい顔をしたソーコが目に入る。祭りの雰囲気にも惑わされない、相変わらずクールな女だ。

先日の花見でのキス事件は真選組内でちょっとした騒動になったが、翌日目を覚ましたソーコは何一つ覚えていなかった。要するに記憶を飛ばす程酔っていたのである。
それに安堵した土方は、『他言無用』と隊士達にキツく灸を据え、この件はなかったことになっている。無論、破った者は切腹だ。介錯は勿論土方直々となる。

屋台の誘惑に負けず、相変わらず何を考えてるのか解らない表情で歩くソーコに、
「珍しいな、お前がマトモに警護にまわるなんてよ」
と軽くからかってやると、ソーコは僅かに顔を歪ませた。


「…さっき山崎と一緒にラーメン屋寄っちまったんでィ。腹一杯で何も見たくねーや」


ああ、そういうことね…と土方はガクッと肩を落とす。朝の会議で高杉の話を持ち出したこともあり警戒しているのかと思いきや、いつも以上に緊張感のない様子だ。


「ちょっとウンコしてきまさァ」


恥ずかしげもなくそう言ってそそくさと退散するソーコの背中をじとっと見送ると、反対側に居た近藤が豪快に笑い出す。

全く、なんであんな奴とキスなんてしてしまったのか。あの日の自分の行動が全く理解できない。


勿論近藤も土方とソーコのその現場はばっちり見てしまったのだが、過去を知っている身として突っ込んでいい話題ではないので、あれから一切その話題には触れていない。

しかし近藤としては、どうにもこの二人が惹かれ合っているようにしか思えなかった。
お互いミツバという存在に遠慮をして、自分の気持ちに素直になれていないだけでは、と。


(もしそうだとしたら…ミツバが哀しむだろうに)


自分の存在が二人の恋路の邪魔をした、なんて知ったら。しかし、誰が悪い訳でもないのだ。
ミツバは想いを伝えただけ。
土方は想いに応えられなかっただけ。


ソーコはーー…どうなのだろう。


真実はまだわからない。





◇◆◇◆◇◆


屋台が連なる通りは人混みに覆われ、とてもそこに混ざる気持ちにはなれなかった。
勿論、ウンコしてくる、というのは嘘だ。
サボりの口実として言ったまで。


「ザキの奴どこ行っちまったんでィ…これじゃ全然わかんねーでさァ」


確かお上にたこ焼きが食べたいと申し付けられ、買いに行ったっきり戻ってこない。
射的や金魚すくいで遊ぶ予定だったのに、と舌打ちをしながら、この人混みの中を捜す気力もなく、祭囃子にソーコはクルリと背を向けた。

確かそろそろ花火が上がるはず。

ターミナル近くの廃ビルの上から見れば、それはそれは綺麗だろう。

将軍様よりも特等席をゲットしてやる、とソーコは一人祭り会場を後にした。


背後から忍び寄る不穏な気配には気付かずに。



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -