山崎が掴んできた情報。
ホシは“廻天党”と呼ばれる攘夷派浪士軍団。桂達とは別の組織だが、負けず劣らず過激な組織らしい。さらに屋敷の中に大量の麻薬を発見した。間違いなくクロだ。


部屋で会議を開いている土方と隊士達から離れ、ソーコは山崎を無理矢理引っ張ってきて、ある行動を取ろうとしていた。


「山崎、ちっと薪集めてきてくれや」


「ソーコちゃ……、沖田隊長、一体何するつもりですか?」


はぁ、と溜め息を吐きながら、山崎は個人プレーに走るソーコを見つめる。
もう何度目になるだろうか、こうやってソーコの企みに力を貸すのは。何故だかいつも自分を頼ってくるソーコを始めは不思議に思っていたのだが、今では当たり前になってしまった。


「攻めの護りでさァ」



ニィ、と笑いながらソーコは言う。
嫌な予感だ。

ソーコは意味もなく悪事を働いたりはしない。
何か相応の理由がある。今回の件は、ソーコが行動を移すには充分な内容だった。
それを山崎は解っているから、どうしても放ってはおけないのだ。

初めてソーコに声をかけられた日を思い出す。
弱冠14才で隊長を努めるソーコは、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。顔はとても綺麗に整っているし、表情も乏しい。冷たい印象を受ける瞳。
しかしそんな彼女に、ふと目が合った瞬間にちょいちょいと手招きをされ、『ちょっと手伝ってくだせェ』と土方を捕まえるための罠を一緒に作らされた。こんなことがバレたら副長に殺される、と山崎は焦ったが、それは子供が作る落とし穴のようなものだったので、苦笑しながらも手伝ってしまった気がする。
案の定罠は簡単に見つかり、こっぴどく叱られ、二人で屯所の廊下で三時間正座をしたのは良い思い出だ。

今では奥の奥に隠されたソーコの本音も、たまに聞ける。

自分にだけこんなに心を許してくれるソーコに、山崎が好意を抱くようになるのは自然なことだ。例え一回り以上歳が離れていても。


集めた薪と、少し太めの木を十字に建てると、ソーコは禽夜の部屋へ忍び込み、いとも簡単に禽夜を十字架に磔にした。
寝ていた蛙は運ばれている途中抵抗を見せたが、首筋に刀をあてられ、すっかり大人しくなってしまった。

攻撃は最大の防御、とはよく言ったもので、攘夷浪士に狙われているこの蛙本人を囮に使い、攘夷浪士を誘き寄せるのがソーコの考えた作戦だ。
十字架から落ちないようにロープでしっかりと固定すると、ソーコは涼しい顔で指示を出す。


「よっし。山崎、火ィ焚いてくれィ」


「ほ、本当にやるの…?」


たじろぐ山崎だが、それでもソーコの方が怖いらしく、言われた通りマッチで薪に火をつけた。
小さな火種はパチパチと音を立てながらあっという間に大きくなる。
夜も遅く、肌寒さを感じるこの時間に、ちょうどいいくらいの仄かな温かさを感じる。


その時、砂利道を歩く足音が聞こえた。


まさか本当に攘夷浪士が!?と、山崎が目を見張ったと同時に、現れた人物も目を丸くした。




「何してんのォォォお前!!!」



現れたのは鬼副長。たった今まで部屋で隊士達とあつい話を繰り広げ、大将が護ると言ったもんは護る、と堅く誓った筈なのに、その護るべき人物は磔にされていた。



「大丈夫大丈夫、死んでませんぜ」


軽く言うソーコには何を言っても無駄と感じた土方は、怒りの矛先を山崎へ向ける。
元々、よくソーコとつるんでいるというだけで、山崎に対する苛々は増すばかりだ。



「おい山崎!テメェはガキのお守りも出来ねぇのか!!」


「ひっ…す、すみません!!でも、これも作戦で…」


「うるせぇ!!さっさとそこになおれ、俺が介錯してやる!!」


ただ仲良くしていただけで切腹とは如何なものか、しかし頭に血がのぼった状態の土方には、誰の言葉も届かない。また不毛な追いかけっこが始まろうとしていた…が、間に入ったのは意外にもソーコだった。


「聞き捨てならねェな。誰がガキだって?」


そろそろ子供扱いされるのが嫌になってきた年頃のソーコに、“ガキ”という単語は禁句だった。



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