更にソーコの機嫌を損ねたのが、土方の山崎に対する態度だ。武州から江戸に出てきて、真選組が作られ、周りに知らない人間、それも異性の仲間に囲まれ、最初息が詰まりそうだったソーコに、唯一普通に接してくれた隊士。
それが山崎だった。
皆異性だからとか隊長だからとか、一歩間を空けて接する中で、山崎だけは自分を特別扱いしなかった。山崎にしてみればそれは普通のことなのだが、ソーコはそれをずっと感謝していたのだ。


「あんたはいつもザキを目の敵にして。いつもでさァ。弱い者苛めはやめてくだせェよ」


弱い者、と称されたことに少しだけ傷ついた山崎であった。しかし、いつも散々扱き使われているだけに、その言葉は胸にじんと響く。


「…なんだお前ら、デキてたのか?こりゃあ、お邪魔だったな」


山崎を庇うソーコを見て更に虫の居所が悪くなった土方は、フン、と鼻を鳴らして背を向ける。むしゃくしゃする。此処には居られないと踵を返した時、背後から静かな声が聞こえてきた。


「山崎のことは好きでさァ」


え、と声をなくすほど驚いた山崎と、目を見張った土方が一斉にソーコを見つめる。
彼女はいつものように無表情で、静かに続ける。


「隊長って肩書きで周りが無駄な気ィ遣うのに、ザキはあたいを贔屓したりしねェ。壁つくんねェで話してくれる奴でィ。ザキがいなかったら隊長なんてとっくに辞めてまさァ」


普段、隊長という立場を利用してふんぞり返って歩くソーコの、内に隠した本当の気持ち。あの態度は、弱い部分を見せまいとする故の行動だったのだ。


「そもそもあたいが真選組にいるのは、近藤さんが好きだからでしてねぇ」


御上も幕府も関係ない。己の命まで賭けて真選組の隊長を務めるのは、好きな人達の為に自分が出来ることをしようという純粋な思いからだった。


「でも何分あの人ァ人が良すぎらァ。他人のイイところ見つけるのは得意だが悪いところを見ようとしねェ。あたいや土方さんみてーな性悪がいて、それで丁度いいんですよ真選組は」



ソーコの真選組に対する思いは、土方が思うものと全く一緒だった。


幕府でも将軍でもない。
己の剣は、近藤のためだけにある。


それが解っただけで、何とも清清しい気持ちになった。同じ志を持った者が肩を並べて剣を構える。
それだけで真選組に誇りをもてる。
普段いがみ合っているようで、こういう時に同じ方向を向けるソーコや、後ろについてきてくれる隊士が、土方にとっての護るべきものだ。



ーー…薪がパチパチと燃える音と共に、屋敷の正門が騒がしくなる。いち早く物音に気付いた山崎がパッと顔を上げる。

どうやら攻めの護り作戦は成功のようだ。

ソーコと土方は目を合わせて頷くと、静かに刀を抜いた。






◆◇◆◇◆◇


真選組の攘夷浪士大量検挙及び幕府要人の犯罪シンジケートとの癒着問題はニュースや新聞で大きく取り上げられた。
そのニュースは此所“万事屋銀ちゃん”にも届く。
仕事がなく暇をもて余す神楽は、全く興味のない新聞にも目を通しながら、同じく惰眠を貪る銀時の頭をペシペシ叩く。


「ねーねー銀ちゃん、癒着って何?」



「んあー?」



寝起きで回らない頭を無理矢理動かして、考えてみたが上手く説明出来そうにない。ガバッと上体を起こして神楽が読んでいる新聞を取り上げる。

一面に写っているのは、攘夷浪士と闘う真選組の姿。その中でも一番目立つ、紅一点の隊長の姿を見て、銀時は口元を緩めた。





「…へぇ、イイ顔してやがる」





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