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池田屋の後からどうにも気になって仕方がない少女。日常生活で真選組とは滅多に顔を合わせなかったが、これを機会にどうにかお近づきになれないものか。そんなことを日々考えている銀時だった。
まさかあちらさんからやって来てくれるとは。
以前は桂を取り締まるべく参上したようだが、今日は一体何が目的なんだろうか。


「爆弾処理の次は屋根の修理か?節操のねェ野郎だ。一体何がしてーんだてめェは」


銀時の後をついて梯子を上ってきた土方に、銀時は向き直る。振り返った先の鬼副長は、獲物を見るような目で此方を見ている。


「近藤さんを負かす奴がいるなんざ信じられなかったが、てめーならありえない話でもねぇ」


「近藤さん?」


聞き慣れない名に首を傾げると、土方は此方に向かって刀を放り投げてきた。銀時は反射的にそれを受けとる。


「女取り合った仲なんだろ?そんなにいい女なのか?俺にも紹介してくれよ」



女を取り合う…。
その台詞に昨日の出来事が鮮明に蘇ってくる。

新八の姉である志村妙。夜の蝶として働く彼女に一目惚れをし、以来ストーカー並みにつきまとっているゴリラ男。
お妙の行くところ行くところに出現し、その行動の異常さにお妙も迷惑していた為、お妙の許嫁を装い正々堂々と勝負をして身を引いて貰ったのだった。

どうやらそのストーカーが“近藤さん”のようだ。


「…お前あのゴリラの知り合いかよ。にしても何の真似だこりゃ…」


そこまで言いかけた時、土方は目にも止まらぬ速さで斬りかけてきた。


ーーーやはりこいつで間違いなかった。

獲物が確定したら一発で仕留めるつもりであったが、土方の斬撃を銀時は間一髪鞘で受け止める。



「!!」


まさか受け止めるとは思っていなかった。
やはりこの男、ただ者ではない。
土方の居合いを全くの無防備の状態から防ぐなど、よほどの手練じゃないと不可能だ。

受け止めたものの、衝撃に堪えられず銀時は弾かれて屋根の上を転がる。そのまま落ちるかとも思われたがすぐに体勢を整えた。



「何しやがんだてめぇ!言っとくけどなぁ、女取り合ったっつってもフリだから!本気じゃねーからこっちはァ!」


あの場を丸く収めるにはああするしかなかったんだよ、と銀時は必死で弁解する。
まさかあのゴリラが真選組の奴だったとは。警察がストーカーやってるようじゃ世も末だな、なんてことを考えている間に、土方はもう一撃入れてきた。
今回は太刀筋が見えたため、避けることは出来たが、どうやらこの戦いは自分を仕留めるまで続きそうだ。
かつては白夜叉と恐れられたとはいえ、今は平穏に暮らしている銀時は、意味もなく誰かとやり合うなんてまっぴら御免であった。何とか鬼副長を宥めようと口だけが動く。


「つーかいい女ならいるだろーが真選組に!オッキーが近くにいんのに贅沢言ってんじゃねーぞ」



そう捲し立てるとピタリと土方の動きが止まる。

相変わらずの無表情で、土方はこちらを見据えていた。

やはりオッキーの話題は効果覿面のようだ。


「この前も仲良く二人並んで登場してたし、実はもういい仲だったりすんじゃねぇの?副長さんと一番隊隊長さんよォ」


黙りこくって動かなくなった土方に、畳み掛けるように銀時は言う。
先程まで獣のようにギラギラとしていた土方の目が、急に濁った深い深い黒色に変わる。



「…俺がソーコと?そいつぁ、ねェな。
あり得るわけがねェ」


「……?」



からかってやるつもりが肩透かしをくらった。
静かに、冷たくそう言い放った土方は、これ以上語ることはないと、また切っ先を銀時に向ける。

不穏な空気に、どうやらあの二人は訳ありらしい、と勝手に予想して、此方に飛び掛かってくる土方に向けて仕方なしに刀を構えた。





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