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所変わって、此処は江戸郊外の山の中。
「カブト狩りじゃああ!!」
麦わら帽子を被り虫取網を持った神楽が意気揚々と山の中を進んでいくのを、新八はジト目で見つめる。
隣には涼しい顔をしたソーコ。
「…なんでこうなるの?」
「チャイナが汚ェ虫でカブトムシ相撲挑んでんの見たんでィ。糞まみれの虫飼われたら堪ったもんじゃねぇや、ここはカブトムシの一匹や二匹、とってくる方が良いと思ってねィ」
「いや、それはいいんですけど…」
新八が不満に思っているのはそこではなく、ソーコの一言に巧いように乗せられた保護者の方だ。
『旦那、世の中はカブトムシブーム再来中なんでさァ。何でも車1台買えちゃう値段らしいとか…』
「カブト狩りじゃああああ!!」
ソーコの一言を鵜呑みにした銀時は、自らも神楽同様の格好になって山道を進んでいく。
最近の万事屋には目立った仕事がなく、銀時のバイト代で食い繋いでいる状況だったので、藁にもすがる思いなのだった。
しかし何十万もするカブトムシなんて早々見つかるもんじゃないと始める前から諦めている新八はあまり乗り気じゃないらしい。
「…どうすんですか、銀さんテントまで持ってきてますよ。捕まえるまで粘るつもりですよ」
キャンプ道具一式を持ってきている銀時は、せっせとテントを張り始めた。此処を拠点にするらしい。
要するに捕まえるまで帰れないという意味だ。
「どっちにしろあたいは明日仕事なんで。帰るんで。関係ねぇです」
我関せずの出立ちで平然と答えるソーコに僅かに殺意が芽生えた新八であった。
テントを張り終え早速山の中を散策する四人であったが、カブトムシは一向に見つからない。
「意外に見あたりませんね」
すぐ見つかると思っていたのに、カブトムシの気配は何処にもない。辺りをキョロキョロ窺いながら彷徨い歩き、既に小一時間が経過していた。
「どうすればイイネ?」
「流行ってるって話だしこの辺はもうとりつくされてるのかもしれませんね」
もう少し奥まで行ってみよう、と四人が方向を変えた時、何者かの気配を感じて一斉に其方を振り返る。
振り返った先に見えたものは、身体中に蜂蜜を塗りたくって木のように突っ立っている真選組局長・近藤勲の姿だった。
余りにも衝撃的なショットに四人は動きを止める。
恐る恐る声を掛けたのは悲しいことに彼の部下であるソーコであった。
「近藤さん何やってるんですかィ?こんな山ん中で」
聞き慣れた女の声に森林と同化していた近藤は、ハッと表情を変えて此方に頭を向ける。
「ソーコか!来てくれたのか!」
「いや、たまたま…」
通り掛かったらゴリラの妖精が見えたんで、と呟いた所、背後の茂みをガサガサと掻き分ける音と共に土方と真選組隊士数名の姿が現れる。
私服でポカンと突っ立っているソーコを見て驚いたのか、土方は目を見開いた。
「オメー何で此処に居んだ?」
「こっちの台詞でさァ」
非番で留守にしているとのことだったので敢えて徴集しなかったのだが、ソーコ自ら山にやって来るなんて、と疑問符を浮かべたが、彼女の後ろに見える人影に目の色を変える。
万事屋一行勢揃いだ。
「見れば解るだろう、カブトムシとりだ!」
堂々とソーコの質問に答えた近藤を見て、土方は頭を抱える。
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