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土方の悪い予感は的中し、日々税金を納めて生活をしている一般市民は口々に文句を言い出した。


「カブトムシとりぃ!?」


「オイオイ市民の税金しぼりとっておいてバカンスですかお前ら?」


こうなるから言いたくなかったんだ、と土方は青筋を立てるが、近藤は憮然として続ける。



「こいつは立派な仕事だ。将軍様がこの森の別邸に御静養の折『瑠璃丸』と生き別れてしまったらしい。愛玩ペット・瑠璃丸を見つけ出し将軍様へ御返しすることが俺達の任務だ…っていうわけでソーコ、手伝ってくれ」


非番のところ悪い、と手を合わせ頭を下げる近藤の頼みを断る術など持ち合わせていないソーコは、いつも通り頷いて真選組の方へ戻ろうとした…が。


ガシッ。


「!」


突然手首を強い力で握られ、驚いてその手の持ち主を見上げると、死んだ魚の目と目が合った。


「「………」」



何を言うでもなく手首を離さない銀時の姿に、当の本人ではなく何故か土方が怒りを露にする。


「テメー何しやがんだ、さっさと離しやがれ!」


「嫌だね!オッキーは非番だから俺たちとカブト狩りする約束だもんね!」


「ガキかテメーは!その汚ぇ手を離せって言ってんのが聞こえねーのか!」


ソーコを取り合い、大人の男二人がギャーギャー醜い争いを始めたが、それに終止符を打ったのは他でもないソーコだった。



「旦那ァ、一応これも仕事なんで。
手、離しなせぇよ」



愛しい恋人の辛辣な一言に銀時は石化した。
それを見て鼻で笑うと、土方はソーコに任務の確認と作戦を伝えるべく、彼女の背を押して真選組の大型テントへ押しやった。

それを側で見ていた山崎は、鬼の副長の余りの痛々しさに袖を濡らしたという。





◇◆◇◆◇◆




結局日が沈む頃になってもカブトムシは見つからなかった。真選組も万事屋もだ。
身体中に蜂蜜を塗りたくるハニー大作戦、木にマヨネーズを塗りたくるマヨネーズ決死行、仲間の振りをして接触するなりきりウォーズエピソードVなど、色々試してみたが駄目だった。当たり前だが。

暗くなっては何も見えずこれ以上探すのは困難なので、両陣営共今日は諦め、夕飯の支度を始める。

火を焚いてバーベキューの準備に取り掛かる山崎は、つまらなそうに野菜を切っているソーコに気付き声を掛けた。


「見つからなかったね、瑠璃丸」


ハッと顔を上げて山崎の顔を見ると、彼女はまた手元に視線を戻した。


「こんな広い森ん中で一匹の虫を探すなんて無理な話でさァ…そもそも、黄金色に輝くカブトムシなんてほんとにいるんですかィ?」


瑠璃丸は陽の下で見れば黄金色に輝く生きた宝石のような出で立ちをしているが、パッと見は普通のカブトムシと見分けがつかないらしい。
すっかりやる気をなくしているソーコは切った野菜と肉をブスブスと適当に串に刺していく。

山崎の目には、それは瑠璃丸が見つからないことへの苛立ちではなく、万事屋の旦那と過ごせる非番を
潰されたことへの苛立ちに見えた。


「将軍様が言うんだから仕方ないよ」


ソーコが刺した串を受け取ると、山崎はそれを網の上に乗せていく。暫くして肉の焼ける良い匂いが漂ってくると、隊士達が一斉に集まってきた。

お腹を空かせた男達が肉に群がっていく所を離れたところでボンヤリ見ていたソーコは、近くから肉とは違う匂いがするのに気付く。
くん、と鼻を利かせると、それがカレーの匂いだと解った。

万事屋チームも夕餉の支度中のようだ。


万事屋、と頭に思い浮かべただけで、優しい目で此方を見下ろす銀時の顔が鮮明に過る。



「…あたい、肉よりカレー食いてェ」


そう呟いて立ち上がり、そそくさと真選組キャンプ地を後にするソーコを、山崎は黙って見逃した。
もし自分が副長だったら、彼女をここで引き留めるのだろうか。



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