追っ手に追われるのは日常茶飯時な桂は、銀時に変わってこの状況を冷静に分析する。



「銀時、アレは恐らく攘夷浪士だ。廃刀令の御時世に堂々と帯刀する者など、幕府に与する者かそれに仇なす者の他おるまい」


無論、桂もそれに含まれる。


「ったく何だってんだよ、誘拐だの橋田屋だの…」


橋田屋、の名前を出すと桂の顔色が変わる。
橋田屋は徳川幕府開闢より続く老舗。
元は小さな呉服問屋だったが時代に応じた柔軟な発想で変化発展を繰り返し、今では江戸でも屈指の巨大企業となっている。


「橋田屋の現当主・橋田賀兵衛。これがくせ者でな、一見ただの好々爺だが、裏で攘夷浪士達のパトロンのようなことをやっているらしい」


「パトロン?」


「つまりテロリストのテロ活動を裏で援助しているというわけだ」


しかし商人は利益にならないことはやらない。援助する代わりに浪士達を闇で動かし商いに利用していることは明らかだ。


「…汚ねー仕事を請け負わせる用心棒代わりってわけか。つーかなんでそんなエライ奴の孫が俺の所に?」


此処で話をしていても謎は深まるばかりだ。
腕の中の赤ん坊を覗いてみると、つまらなそうにおしゃぶりをくわえている。
桂は銀時と彼そっくりの赤ん坊を交互に見やると、突然小指を立ててぼそりと呟いた。


「…時に銀時。コレの方はどうなった?」


コレ、と言いながら眼前に立てた小指を軽く動かしてみると、その古臭い動作に銀時は呆れながら答える。


「テロリストにも一般市民のゴシップが出回ってんの?世も末だなオイ」


「?どういうことだ?」


本当に何も知らない、といった顔の桂を前に、銀時は一瞬きょとんとするが、すぐに頭をボリボリ掻きながら口を濁す。


「あー…そうそう、俺オンナ出来てェ…」


「ほう。相手は誰だ?」


腕を組み静かな眼差しで此方を見据える桂を前に、銀時は本気で頭を抱えていた。
話は一年弱遡り、真選組と初対面した池田屋騒動でのこと。テロを起こした桂に巻き込まれる形で偶然居合わせた銀時は、桂とそれに真っ向から対立するソーコの姿を見ている。しかし銀時はもう攘夷派ではないので、問題はそこではない。
敵対する間柄でありながら桂はソーコに好意を寄せていた。
それを知っている上で今、ソーコと付き合っているとここで言ってしまって良いものか悩んでいた。

勿論それは銀時の杞憂である。
桂は北斗心軒でソーコが幾松に恋心を打ち明けているのを盗み聞きしている。それを知った桂はもう彼女から身を引いていたので、銀時の口から出てくる名前がソーコであることを望んでいた。

重い沈黙を破ったのは、意を決した男の方だった。



「…ヅラァ、俺オッキーと付き合ってるわ」



目を合わせずにボソッと呟く銀時に、桂は短く「そうか」と答えた。
よくも俺のオッキーを、と掴みかかられるのを覚悟していた銀時は拍子抜けして桂に目をやる。


友の積年の想いは報われたようだ。


ホッとした桂は無表情だったが、穏やかな目をしていて、桂が言いたいことに気付いてしまった銀時は再び目を逸らす。



「さては貴様オッキーという女がありながら賀兵衛のところの娘とチョメチョメ…」


「だから違うって言ってんだろ!何?チョメチョメって!お前古ーんだよセンスが古い!」







ーーー…時を同じくして、スナックお登勢には一人の好々爺が訪ねてきた。

名を橋田賀兵衛という。

行方不明になったと赤ん坊の写真と、連れ去ったと思われる一人の娘の写真を持って。



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