10.中宵

「ああ、また負けた!悔しい!」

俺の名はナルサス。普段は戦の策略やアルスラーン殿下の師事なんかをしているが、本来は絵画をこよなく愛する芸術家であることを強調しておこう。また、向かいで静かに考え込んでいるのがアーシャである。彼女が王都エクバターナ陥落の混乱で、偶然旧友であるダリューンと再開したのは記憶に新しい。それからあれよあれよと話が転がって、今では彼女も殿下に仕える仲間の一人である。
さて、そんな彼女が突然ボードゲームをしようと部屋にやって来たのが夕餉から一刻ほど過ぎたことだっただろうか。それから既に何時間も経ち、今はすっかり深夜である。

「おいアーシャ、そろそろ終わりにしないか」

「もう一回だけお願い! 今度こそ勝てそうな気がするの」

……さっきも似たようなことを言ってなかっただろうか。最初はこちらも集中して取り組んでいたのだが、何度も試合を繰り返したためさすがに疲れてきた。こうなったら、適当なところで手を抜いて終わらせてやろうか。

「またそれか。全く、これが最後だからな」

「ありがとうナルサス。あ、でも手抜いたら怒るからね」

俺を見てじとりと目を細めた彼女にやれやれと肩を竦めた。思いの外アーシャは負けず嫌いなようだ。



***



「ふむ……」

ゲームも終盤に近づいてきたころ、俺の番になってからしばらく経った。どうしたものかと次の手を悩んでいる。対するアーシャは「ナルサスがこんなに考え込むの初めてじゃない?」と、期待に満ちた顔をしていた。彼女は元々弱くもなかったが、繰り返す度に敗因を分析してどんどん強くなっていくのだから恐ろしい。こうなっては俺も意地でも勝ちたくなってくる。

「手は抜いてやらないからな」

「もちろんよ」

ようやく俺がコマを動かしたと同時に、自信満々だった彼女の表情がこわばっていくのは何度度思い出しても吹き出してしまいそうな光景だった。

はたして彼女が勝って開放されたのか、結局彼は朝まで付き合う羽目になったのか。全ては二人と神のみぞ知る。

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