02*ver.?
そんな決意に一人で燃えていると、隣を歩くなまえから「良かったー」という声が聞こえて、改めてなまえを見た。
『あたし、トロピカルランド行くの初めてだからワクワクしてるの!』
「じゃあ今日は花火が上がるまで乗り物乗りまくるか?」
『花火?』
なまえがきょとんとしている。
が、その顔もかっわいー!!!
何とか平静を装いながらも、明らかにご機嫌な口調だけは直せなかった。
「7時に花火があんだよ。空から見たらキレイだぜ?」
『空から?』
「あそこ、でっけー観覧車があっから、そっから見たら園内一望出来てすっげーキレイなんだよ」
『じゃあ、最後はそれで決まりね!』
良かった。どうやら当初の目的の「観覧車で花火」はあっさりと案が通ったようだ。
自分で見たような言い草だが、これも全部ただの受け売りに過ぎない。
「普通に見上げるよりネオンが背景になって何倍もキレイなのよ!」
そう俺に教えてくれた先輩やダチは一人や二人じゃなかったのだ。
楽しみで仕方ない!って感じでウキウキしてるなまえを見てると、俺まで楽しくなる。
「って感じなんだけど、なまえはどんな乗り物が好きなんだ?」
『ジェットコースター!』
俺が簡単に園内のアトラクションを説明した後、なまえに好きなアトラクションを聞いたら即答された。
今日のなまえは俺の話を真剣に聞いてくれるどころか、大きなリアクションまで返してくれる。
いつもこうだったらどんなに楽しいことか!
とは思うものの、嬉しくて一緒になって騒いでるのは他でもないこの俺だ。
「でな、新しいアトラクションがそのエリアに今年出来ててさ」
さっきまで瞳を輝かせて聞いていたなまえがふと真剣に俺を見る。どした?
『もしかして黒羽くん、今日の為に調べて来てくれたの?』
「えっ?いや、その…」
言えやしない。
ネットも口コミもリサーチしまくって今日の為に備えてた、なんて。
それもダチが引く程に、だ。
浮かれてた俺も俺だが、いや、今でも夢心地で浮かれている真っ最中だが、それでも今日はなまえにとことん楽しんでもらいたかったから必死だったのだ。
『わざわざありがとう!遊園地ついてからも案内よろしくね?』
「任せとけって!」
バレてしまった気恥ずかしさに少し顔を逸らしていたら、なまえから声をかけられた。
思わず全力で請け負う。
ホント、なまえは俺を乗せるのがうまいと思う。
ポーカーフェイスなんてなまえの前では形無しだ。
「ほら、行くぜ!まずはなまえが好きだって言ってた絶叫系制覇しなくちゃな!」
でも、今日くらいはポーカーフェイスを忘れたっていいだろう。
俺だってなまえとめいっぱい楽しみたい。
シンボルの城を見上げてうっとりとしていたなまえの手を取って走り出した。
そこからは、なまえのハイテンションにつられるように、俺のテンションも底なしに上がっていった。
二人で遊園地内を駆け巡り、時折休憩を挟んでは二人で制覇していったアトラクションについて語っていた。
なまえもこんな風に無邪気にはしゃぐことってあるんだな。
こんなに声を上げて笑うこともあるんだな。
初めて尽くしのなまえの一面を知る度に改めて思う。
あぁ、俺はこいつのことが心の底から好きなんだって。
もっと俺の知らないこいつを知りたいって、もっとなまえを独占したいって俺の欲が顔を出す。
『今日はホントにありがとね。すっごく楽しかったわ』
一日はしゃいで満足したのか、すっきりとした顔でなまえが言った。
もう、この観覧車で今日のデートは終わりを告げる。
「俺も今日はすっげー楽しかった!なまえがずっと楽しそうにしてたから余計にな!」
『え?』
「俺、なまえがこんなに嬉しそうにはしゃいでくれるなんて思ってなかったから、なんかすっげー嬉しかった!」
そう言うと、なまえは照れたように視線を落とした。
そんな仕草も可愛くて仕方ない。
俺たちが付き合っていたのなら間違いなく抱き寄せてキスをしただろう。
でも、今はまだそれが出来ない。
この現状が歯がゆくて仕方ない。
「ほら、もうすぐ花火が始まるぜ?…3、2,1」
だから俺はなまえの意識を外へ向けさせた。
勿論花火が上がったその瞬間に、俺は願掛けをしていたのだけれど、そんなことなまえが知るはずもない。
俺の声に外を眺めたなまえは、両手をついて始まった花火に魅入っている。
『わぁー…キレイ…』
俺はそんななまえをずっと眺めていた。
花火やネオンなんてどうでもいい。
「俺はなまえの方がキレイだと思うけどな」
『え?何か言った?』
「何も言ってねーって」
俺の呟きに不思議そうにこちらを見たなまえだったけど、俺の言葉に微笑むとまた外へと視線を移した。
花火もネオンも夜空を照らす月や星だって役不足だ。
まとめて挑んだところで、目の前の彼女には敵わない。
彼女の笑顔には負けてしまう。
特に今日みたいな至極の微笑みには敵うわけがない。挑むだけ無駄だと知って走り去るだろう。
彼女の歌声には誰をも魅了する魔法がかかっている。
そんな彼女に勝てるものなど、この世に存在しないに違いない。
『あーあ。終わっちゃった…』
「んな顔すんなよ。また連れて来てやっからさ!」
『うん…』
俺も今日が終わってしまうのは残念だ。
今日この日が永遠に続けばいいとさえ思った。
でも、それじゃあ俺たちの関係は先に進まない。
それに、こんな風に寂しがってくれる程に今日を楽しんでくれたのなら、俺も必死になった甲斐があったってもんだ。
「俺がなまえにいろんなもん見せてやるって!」
『え?』
俺の言葉を聞いて俯いてた顔を上げた彼女に、俺は自信満々に宣言した。
「なまえが今日みてぇに笑顔になれるような場所、いっぱい連れてってやるよ!」
『うん!』
俺の一言にまた嬉しそうな笑顔を返してくれた時にはなまえのマンションについていた。
俺はあの日から瞳を開けたまま、夢を見ているようなそんな気分だ。
あの日、俺のデートの誘いを嬉しそうに承諾してくれた彼女。
それが遊園地目当てだって構いやしない。
あんなに喜んでくれんなら、俺は何処にだってオメーを連れてってやるよ。
俺の知らないなまえが見れんなら、俺は何だってしてやるよ。
だから、オメーも覚悟決めてろよな?
俺は欲しいと思ったもんは絶対手に入れるって決めてんだよ。
→あとがき&反省