それからどれくらい時間が経ったのか、空が赤く染まる頃、新一があたしの家に来た。
会いたくないって言った頃にはお母さんが勝手に中に入れてたのだ。
「なまえ、泣いてたのか?」
『…』
「悪かったって。今日は」
『聞きたくない!』
せめてもの抵抗で新一に背を向けると、後ろからそっと抱き締められた。
「今日はこれを買いに行ってたんだ」
『…』
あたしの手元にある小さなラッピングされた可愛い袋を見る、けど素直に受け取れない。
「来週でちょうど付き合い出して1年だろ?
なんか記念になるもん送りたいって蘭にあの店教えてもらったんだよ」
『…それ蘭が選んだの?』
だったら絶対受け取らない、って思ってたんだけど、
「いや、俺が選んだ」
『…』
「選ぶもん選ぶもん蘭と園子にダメ出しされて、で、やっと決まったらこんな時間になってたんだ。悪かった」
『ずっとあのお店にいたの!?』
だってあれから3時間は軽く越えてるのに?
驚いて新一の方を振り向いたら、
「やっとこっちを向いてくれた」
って優しく微笑まれた。
あたしの大好きな笑顔。
悔しいけど、こんな時でもドキッとする。
けど、それより、
『あれからずっとお店に居たの?』
「園子がなまえ泣かしたんだから、絶対にオメーが喜ぶもんプレゼントしろってダメ出しが厳しかったんだよ」
って苦笑された。
…なんて迷惑な客だ。
プレゼント一つ選ぶのに3人がかりで4時間近くお店に居座るなんて。
おかげで、悲しいキモチもほんのちょっぴり怒ってたのも、全部どこかに吹き飛んでしまった。
『これ、開けてもいい?』
「おう」
まだ新一の手にあった小袋を受け取って、丁寧に開けてみる。
『ブレスレットだ…』
「ネックレスはこの前の誕生日にやっただろ?だから違うもんって思ったらそれしか思い付かなかったんだよ。オメーピアスはしてねぇだろ?」
『…』
「なまえ?」
ブレスレットはチェーン部分も細かい細工がしてあって可愛くて、プレートにはあたしと新一の誕生石が埋め込まれていて、裏面には新一に告白された日付が刻まれていた。
こんな恥ずかしいの新一が選ぶわけがないからたぶん園子あたりが主張したんだと思うけど…
『ありがとう。すっごく嬉しい』
「良かった。やっとなまえの笑顔が見れた」
と新一の大きな手があたしの頬を撫でた。
その大好きな手にあたしの手を添える。
何だかそれだけで、付き合い始めた頃みたいにドキドキと胸が高鳴った。
『ねぇ、これ何て書いてあるの?』
「えっ?」
プレートに刻まれてる文字を見せながら新一の顔を覗くと何故か慌ててる。
たぶん気障な台詞でも書いてあるんだろうけど、あたしには読めないし、どうせなら新一の口から聞きたい。
『ねぇ、何て書いてあるの?』
「…」
『新一?』
「…ます」
『え?』
「貴女への永久の愛を誓いますっ!」
食い下がってしつこく聞いていたら、開き直ったのか顔どころか耳まで真っ赤にしながら新一が叫んだ。
新一には悪いけど、笑い声を出さないようにするのが大変だ。
【少し早い記念日を】
貴方と一緒に祝いましょう。
「なまえ、なまえ!新一くんの方のブレスは見せてもらった?」
『え?あれペアだったの?』
「うん!新一の方にはね、」
「「“貴方が隣にいるこの幸せをきっと貴方は知らないでしょう”って書いてあるの!」」
教室の片隅で二人に聞かされた新事実に今度はあたしの方が顔を染める番だった。
→あとがき
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