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 14

「こんのバカヤロー!!」


警視庁内に響いた大声はもちろんあたしのお兄ちゃんのものです。
何と間の悪いというか、ナイスタイミングというか…駆けつけたパトカーの中にお兄ちゃんを乗せたパトカーがありまして。
あたしはお兄ちゃんに引きずられて有無を言わされる間もなく、そのパトカーに乗せられちゃったんだな。これが。

あれ?中森警部と目暮警部って課が違うんだよね?
とか思ってたら、中森警部は宝石だけ持って帰っちゃって。
物騒な人たちのことについては目暮警部たちに任せるって…それでいいのか?中森警部。

で、事情聴取となったんだけど、刑事さんたちが口を開く間もないくらいお兄ちゃんが激怒しちゃってる訳です。


「オメーってヤツはっ!あれだけ現場には行くなって言っただろうがっ!」
『現場には行ってないもん。怪盗さんの逃走経路に行っただけで』
「大して変わんねぇだろーがっ!このバカっ!!」
「まぁまぁ、工藤くん、落ち着いて」
「しかも手錠の鎖を相手の銃で砕いただぁ?テメーは何でそんな無茶ばっかすんだよ!」
『だって身動き取れなくて邪魔だったし…ちゃんと宝石には傷つけないようにしたんだよ?』
「そういう問題じゃねぇっつってんだよっ!!」


刑事さんがお兄ちゃんを宥める言葉をさっきから何度もかけてるんだけど、一切聞く耳を持たないお兄ちゃん。
…ってか、たぶん聞こえてないと思う。
お兄ちゃん興奮し過ぎて顔真っ赤だもん。


「だいたいオメーは」
「工藤くん、落ち着いて!事情聴取出来ないから!ね?」
「佐藤刑事は黙ってて下さい。こいつにはこのくらい言わないと分からないんですよ」
『刑事さん、あたし事情聴取受けて帰りたいんですけど…』
「そうね。夜も遅いし、さっさと済ませちゃいましょうか」
「佐藤刑事!」
「兄妹喧嘩なら家でやって頂戴!工藤くんが喋ってたらいつまで経っても事情聴取出来ないじゃない!」


佐藤刑事、お兄ちゃんを黙らせちゃうなんてナイスです!
佐藤刑事に連れられて別室へと移ったんだけど、外からはお兄ちゃんの怒鳴り声と刑事さんたちの宥める声が聞こえる。
恥ずかしいなぁ。もう…


『お兄ちゃんがご迷惑おかけしてすみません』
「いいのよ。工藤くんにはいつもお世話になってるから」


佐藤刑事はサバサバしてて話し易くて、姐さん!って感じだった。
あたしの事情聴取はホントに簡単なモノで10分くらいで終わってしまった。
その前にお兄ちゃんからのお説教が30分以上続いてたんだけど、たぶんこれ帰ってからも続くんだろうなぁ。はぁ。


「じゃあ家まで送らせるから、ちょっと待っててね」
『はい』
「…」


怒ってるお兄ちゃんは、怒鳴ってる時より黙ってしまう方が怖い。
無言の圧力がかかってくるんだもん。


「確か、こっちの方向で良かったんだよね?」
『はい。2つ目の信号を右でお願いします』
「…」
「あ、あのさ」
『お兄ちゃんのことには触れない方向でお願いします』
「そうするよ」


結局お兄ちゃんは黙りを決め込んだまま、車は無事工藤家の前に着いた。


『送っていただいて本当にありがとうございました』
「気にしなくていいよ。今日はお疲れ様」
「うち入るぞ」
『あ、ちょっと!』


お兄ちゃんがやっと喋ったかと思ったら「うち入るぞ」で、送ってくれた刑事さんにお礼も言わずにあたしを引っ張って玄関へと連れて行ってしまった。玄関の扉をバタンと閉めた途端、お兄ちゃんは静かに口を開いた。


「さて、と。どういうことかちゃんと説明してくれるんだよな?」
『えっと…説明ならさっき一通り話したかと…』
「まさか俺のいない間に今日みたいなことがしょっちゅうあった、とか言わねぇよな?」
『ハイ、今日がハジメテです』
「なら二度とこんなマネすんじゃねーぞ?」
『でも怪盗さんを捕まえるのはあたしが』
「返事は?」
『…』
「なまえ?」
『怪盗さんはあたしが捕まえるんだもん!』
「バーロー!今日危ねぇ目に遭ったばっかだろうがっ!!」
『それとこれとは話が別なんだよ!』
「別じゃねぇよっ!博士に変な道具まで作ってもらいやがって!オメー何考えてんだよっ!!」
『だから!怪盗さんを捕まえる為に』
「二度とこんなマネすんなって何度言や分かんだよ!」
『…』
「オメーが危険な目に遭ったって聞いて俺がどんなキモチだったと思ってんだよ…」
『…ごめん、なさい』


お兄ちゃんはズルい。
お兄ちゃんに抱きしめられたらあたしが何も言えなくなることを知っててするんだもん。

でも、お兄ちゃん、こればっかりはお兄ちゃんにも譲れないんだよ。
あの怪盗さんはあたしが捕まえたいんだ。分かってよ。

言葉には出来なかったけど、伝わってくれるんじゃないかとあたしはお兄ちゃんにしがみついて泣き出した。


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