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 13

怪盗さんの訪問から、ほんの少しだけ機嫌が直ったあたし。
お兄ちゃんは詳しいことは聞いてこないけど、あたしがご飯を食べるようになって安心したらしい。


「オメー、明日は学校行くんだよな?」
『行くよー』
「そっか。蘭が心配してたぜ?」
『あはは…』


明日は蘭にずっと心配されるのか。
未来のお姉ちゃんどころか、既にお姉ちゃんのような存在だからなぁ。


「次いでに園子も心配してたぜ?」
『何で園子は次いで扱いなのさ?』
「あいつはいっつもギャーギャー煩ぇだろ?」
『…否定出来ないなぁ』


そんな話をしながら、夕飯を取っていたら、ちょうど食べ終わった頃にお兄ちゃんの携帯が鳴った。
どうやら目暮警部からの応援要請だったらしい。
…目暮警部、たまには自分で解決しなよ。


「じゃあ俺は出かけてくっから、先に寝てていいぞ」
『はーい』


お兄ちゃんを見送ってから、あたしも出かける準備をする。
実は中森警部から予告状の写メを送って貰ってたのだ。
あの怪盗さん、人に謝罪しに来たのは予告状出した次いでだったらしい。
お昼サービスするんじゃなかったかな。


『んーと、犯行現場があそこで今日の風向きは…』


バカ正直に現場に行っても仕方ないことを知ってるので、怪盗さんが逃走通路に使いそうな場所を探していた。
ハンググライダーが飛べるおおよその距離を計算して、着地地点で隠れて待つことにする。
…これで今日は警官に紛れて逃走とかだったらムダ足だな。


『犯行時刻、か』


犯行現場を見ると白い鳥が飛んでいる。
問題はあれがダミーかどうかだ。


『逆方向に飛んでるってことはダミーか』


警察のヘリがダミーを追っかけていなくなると、もう一羽白い鳥がこちらへ向かって飛んできた。


『ビンゴ!』


思わずテンションが上がる。
今日こそはあの怪盗さんに捕まってもらうんだから!

バサリと怪盗さんが着地して、宝石を月に翳すのを見てから、声をかけた。


『怪盗さん、待ってたよ』
「…なまえ嬢、いらしてたんですか」


あたしが一歩ずつ怪盗さんに近付いて行っても、怪盗さんは動かない。
チャンスは一度きり。


『今日こそは捕まってもらうからね』
「残念ながら私はまだ捕まるわけにはいかないのです」


煙幕を張ろうとした怪盗さんの腕に手錠をかけた。
これはダミー。
手や腕が外れるなんて古典的なマジックで外されるのは読んでいた。
出てきた本物の手に本命の手錠をかける。


『つーかまーえたっ!』
「…これは困りましたね」
『下手に外そうとしない方がいいよ?これには鍵穴がないし、絞まってくだけだから』
「…」


博士の発明もたまには役に立つじゃない。
問題は怪盗さんの方の手錠が絞まれば、あたしの手にかかった手錠も絞まるというところなんだけど。


バキュン


『え?』
「貴様には何度も忠告したはずだ。宝石には手を出すな、とな」


しまった。こんな時に物騒な人たちが出てくるなんて!
手錠のせいであたしも怪盗さんも十分に身動きが取れない。


『怪盗さん、宝石貸して』
「なまえ嬢、一体何を」
『この枷があったら二人とも身動きが取れないからね。あの人たちに壊してもらうんだよ』


怪盗さんに渡してもらった宝石を手錠の着いた手に持つ。
後はあの人たちの銃の腕にかけるしかない、けど。
せめてお兄ちゃんくらいの腕は持っててよね!


『ねぇ、宝石はここだよ』
「お嬢ちゃん、それをこっちに渡して貰おうか」
『怪盗さん捕まえるのに手錠かけちゃってさ。動かせないんだ』
「じゃあ今その不自由な手を自由にしてやるよ。その手を潰してな!」


バキュン


宝石を自由なもう片方の手に落とし、銃口に合わせて鎖を動かして枷を砕いた。
これで動ける!


「なまえ嬢、それは探していた宝石ではありません。早く彼らに」
『イヤだね』
「なまえ嬢!」
「ほう。どうやらお嬢ちゃんは死にたいらしいな」


もう一度あたしに銃口を向けた物騒な人たちに思わず笑みが浮かぶ。


「何がオカシイ!?」
『ねぇ、オジサン、耳大丈夫?』
「何だと?」
『聞こえないんだ?このパトカーのサイレン』


さっき繋いだ携帯が会話は聞こえなくても、中森警部に銃声を届けたはずだ。
そのパトカーがもうすぐココへやって来る。


「パトカーが到着する前に、お前を消すことくら」


銃を持ったオジサンとお付きの人たちにライトが当たる。
オジサンの声はヘリの音で掻き消された。


『怪盗さん、ここは任せて早く!』
「しかし!」
『怪盗さんを捕まえるのはあたしなんだ!他のヤツに譲る気なんかないんだよっ!!』


怪盗さんが一瞬顔を歪ませたけど、次の瞬間には闇に消えた。
その頃には物騒な人たちもどこかへ消えていて、あたしは警部に宝石を渡して帰ろうとしたけど、事情聴取という面倒なことが待っていた。


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