29.文化祭の準備期間
『は?ロミオとの出会いの場面でも歌えって?』
学校に来て見れば、園子に捕まって「歌うシーンを増やしたいんだけど」と相談された。
いや、正確には「歌うシーン増やしたから」って一方的に告げられたんだから相談とは言わないか。
『でも確か二人の出会いってロミオがパーティーに忍び込んで来た時じゃなかったっけ?』
「そうなんだけど、ロミオが憂鬱な気分でフラリと外に出た時に、ジュリエットの歌声に癒されて恋に落ちるって方が素敵じゃない!?」
園子が瞳を輝かせて力説してる…。
そりゃあ片思いに苦しんでるロミオを癒す程の歌声だったら恋にも落ちるんだろうけどさ。
『歌え歌えって昨日から言ってるけど、あたしは何を歌えばいいのよ?』
「それは大丈夫!今、別の班が歌作ってるから!」
『はぁ…やっぱりもう決定事項なのね』
そんなことだろうとは思ってたけど…一体いつそんな班を作ったっていうんだ。
あたし全然知らないんだけど。
「なまえ諦めなよ。私も役者に選ばれちゃったしさ」
『蘭も?どの役するの?』
「ロミオが片思いするロザライン役だって」
いや、ハマり過ぎてて何とも言えないけど。
ロザラインって劇に出てきたっけ?
「まぁ、役者って言ってもロミオがロザラインの恋煩いについて語ってるシーンで舞台袖に立ってるだけなんだけどね」
…園子、キミの目指すロミジュリが全然思い浮かばないんだけど?
『で?問題の脚本と歌はいつ出来るのよ?』
「まだ分かんないけど、出来たとこから練習やってくから、そのつもりでいてよね!」
こんだけ色々言っておいて出来るメドは立ってないんかい。
「それより!あんたたちの衣装はどうなったのよ!?」
『あ、忘れてた。これ園子に渡しといてって言われてたんだった』
有希子さんに渡されていたデザイン画のコピーを渡すと園子のテンションがぶちギレた。
「嘘っ!?何コレ!さっすが新一くんのおば様!!」
「ねぇ、園子。私にも見せてよ?」
「あたしも見たい!」
蘭や明日香も興味があるらしくて、デザイン画が回される。
どうせ出来上がったら着て見せなきゃいけないんだから、止めてもムダだろうとあたしはすでに諦めていた。
「なまえ、これっていつ出来るの!?」
『2週間かかんないって言ってたよ?』
「じゃあ出来上がったらとりあえず皆にお披露目しなくちゃね!」
『ちょっと待った!何、そのお披露目って!?』
「決まってんじゃない!これがあたしたちの作る劇の主役ですよ!ってみんなにお披露目すんのよ!」
何がどう決まってんの!?
そんなの通し稽古ん時でもいいじゃない!
「何言ってんのよ!みんなのモチベーション上げる為にもそんくらいのことはしなさいよねっ!」
『イッター!』
園子のヤツ、全力で打ちやがった!
背中ジンジンするんだけど!
「オメーら何騒いでんだよ?」
『工藤くん!園子止めて!』
「はぁ?」
「もちろん、衣装のお披露目は新一くんも一緒にするからね!」
「は?何かよく分かんねーけど、分かった」
『コラっ!そこ!
分かんないんなら返事するなーっ!!』
っていうあたしの絶叫はこれから続く賑やかな準備の幕開けとなった。
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