『ん…』
お気に入りの遮光カーテンが眩しい日差しからあたしを守ってくれていた。
今は何時だろう?
それより、
『…あれは夢、だったのね』
正直、拍子抜けした。
脱力した身体に活を入れる為に、大きなため息と共に起き上がる。
気がついたらまた病院、なら覚悟してたけど、普通にあたしの部屋のベッドの中だった。
ホントにリアルな夢というのはタチが悪い。
起きてからしばらくはどっちが夢か分からないこともしばしばだった。
錯乱状態のあたしが一番にするのは自分の居場所の確認だ。
今回は迷うまでもなく、あちらが夢だったんだろう。
でも、本当にリアルな夢だった。
波の音がまだ耳に残っているほどに。
泳ぐには冷たい海水があたしを包んでくれてた感覚が消えてくれない。
自分から潮の香りがするんじゃないかとさえ思う。
『はは…此処にいることがあれが夢だったっていう証拠だってのに…』
もう乾いた笑いしか出ない。
くしゃりと髪を掴んで隠した顔は泣きそうに歪んでいたかもしれない。
だけど、泣きたい時に素直に泣けなくなって、どれだけ季節が巡ったことか。
そう。あたしはまだ生きているし、また今日を生き抜かないといけない。
生き抜く、なんて大袈裟だけど。
平和なこの国で簡単に死ぬような幸運にはなかなか恵まれない。
つまりは、またムダに時間を消費して逝くだけだ。
そんなことを頭でぼんやりと考えながら、顔を洗っていた。
『今日は何も予定なかったよね?』
いつものクセで基礎化粧だけ先に済ませて、確認の為に携帯を開けば今日のスケジュールは見事に白紙だった。
よかった。これで時間を気にせず、ゆっくり出来る。
何処かに出かける気分でもないし、部屋でのんびりするかと、現実逃避用のお気に入りの小説を適当に数冊取ってベッドサイドに並べていると、オートロックから呼び出し音が聞こえた。
『はい』
「おはようございます。宅配便です」
『どうぞ』
反射的に反応したのはいいけれど…
あれ?あたしなんか買ったかな?
その時の気分で衝動買いしちゃうから忘れちゃうんだよなぁ…
と印鑑を準備しながら自分のダメっぷりを再確認していると、ピンポンと呼び鈴が鳴った。
「こちらがお荷物になります」
『ありがとうございます』
ハンコを押して、荷物を部屋の中に運んでいる時に伝票を見て驚いた。
名前こそあたしの名前だけれど、住所が全く違うのだ。
でも、連絡先にある番号はあたしの携帯電話の番号になっている。
は?どういうこと?
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