長かったようで短かったお泊まり週間も今日で終わりか、と思うとちょっとだけ寂しくなった。
でもここは工藤くんの居場所であって、あたしの居場所じゃない。
工藤くんが帰って来たんだから、あたしが帰るのは当たり前だ。
気持ちを切り替えて、工藤くんの部屋をノックした。
『工藤くん、入ってもいい?』
「おー」
了承の短い返事を受けて部屋に入ると、工藤くんはまだ何かの本を読んでいるようだった。
『はい。これ昨日借りた小説。ありがとう』
「もう読んじまったのか?」
『うん。面白かったよ』
「そっか」
『じゃあ、あたしもう帰るから。バイバイ』
「え?」
『ん?なぁに?』
「もう帰んのか?」
『うん。帰るけど…どうかしたの?』
「いや、だって…元々はもうちょい居る予定だったんだろ?」
『そうだけど…工藤くん帰って来たし?』
「んだよ。俺が居たらダメなのかよ?」
『いや、そうじゃなくって』
また昨日みたいに眉を寄せて拗ね始めてしまった工藤くんを抑える。
工藤くんって意外と沸点低いのかな?
『この家のこの幸せな空間はあたしのものじゃなくて工藤くんのモノだから。あたしが無い物ねだりしても仕方ないでしょ?』
「みょうじ…?」
『この家に居るのは楽しいけど、あんまり楽し過ぎると怖くなっちゃうのよ』
「……」
『先生達にも挨拶しなきゃだから、じゃあね』
うん。怖くなる、が正解だ。
自分で壊しちゃうんじゃないか、とか。
離れていっちゃうんじゃないか、とか。
楽しすぎると色々不安になるんだよ。
『先生にも有希子さんにも本当にお世話になりました』
「そんなに改まらないで?またいつでも遊びに来てね」
ペコッと頭を下げると、そう言って有希子さんはあたしをぎゅーっと抱き締めてくれた。
「そうだよ、なまえ君。君の家でもあるんだからいつでも帰ってくるといい」
『あたしの家…?』
「そうよ。あの部屋、なまえちゃんの部屋だって最初に言ったでしょ?」
『え?でも…』
「なまえちゃんは気付かなかったかもしれないけど、あの部屋のクローゼットにはなまえちゃんの服もたくさんあるのよ?」
『え…?なん、で…』
「なまえ君の部屋になまえ君のモノがあるのは当たり前だろう?」
涙を我慢してたあたしは、先生の優しい手が頭を撫でてくれると同時に泣き出してしまった。
本当に先生にも有希子さんにも敵わない。
あたしが泣き止むまで有希子さんはあたしを優しく抱き締めていてくれた。
先生があたしの全てを包み込んでくれる優しいお父さんなら、有希子さんは愛情をいっぱいぶつけてくれるお母さんだな、なんて有希子さんの腕の中で考えていた。
暖かくて優し過ぎるこの空間にくらくらしちゃうんです。
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