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有希子さんにも会わずにこっそり外出することに成功したあたしは、真っ直ぐ喫茶店へと向かった。

真夏の太陽に熱されたアスファルトの照り返しが、今まで快適な部屋に引き込もっていたあたしには予想外にキツかったのだ。


「なまえちゃんじゃないか。久しぶりだね」

『マスター、お久しぶりです』

「酷い汗だね。大丈夫かい?」

『ふぅ…。大丈夫ですよ。最近、部屋に隠って本ばかり読んでいたので、ちょっと日差しがキツかっただけです』

「若いうちからそんなんじゃ、体力削られちゃうよ?たまには外に出ないと」

『すみません…』


なんだかんだ言いつつも、頼む前からそっとお水と冷たいカフェオレを出してくれるマスターは優しいと思う。

何だか歳の離れた末妹を気遣うお兄ちゃんみたい…なんて言ったら怒られるかなと思ったけど、大爆笑された。え?何で?


「なまえちゃんみたいな妹なら大歓迎だな。でも、変な虫が寄り付かないか心配で心配で口煩い兄貴になりそうだけどね」

『お兄ちゃんが裏でこっそり動いてそうですよね』


なんて笑いながら話していると、あたしの肩にぽんと誰かの手が乗せられて


「その更に裏ではお父さんが堂々と手を回すんだけどね」


なんて先生があたしにウインクをしてきた。
裏で堂々とか普通に怖いですよ…先生。


「それにしてもマスターがお兄ちゃん?口煩く言い過ぎて“お兄ちゃんなんか大っ嫌い!”とか言われるんだろう?」

「その前に、べったりなお父さんが言われる可能性の方が高いんじゃないのか?」

『あたし的には“お兄ちゃんもお父さんも大ー好きっ!”っていうのがイチオシですよ?』

「「ぷはっ、あはははは」」

『?』

「イチオシときたか…ククッ」

「マスター、なまえ君の方が我々よりも一枚上手だったようだね」


なんて、マスターと先生は仲良く笑っていた。
と言うより笑いが止まってなかった。


『あたし、何か変なこと言いました?』

「くくっ…なまえちゃん、気にしないでくれ。ちょっとツボに入っただけだから」

『はい…?』

「本当になまえ君といると楽しくて仕方ない。このまま夏休みの間だけでもうちにいないかい?」

『先生がお仕事サボっちゃうので、遠慮しときます』


編集者の皆様に恨まれても怖いしね。

それに、あの幸せな空間はあたしの為のものじゃなくて、工藤くんの為のものだから。


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