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(番外編)新一side


みょうじと帰る約束を取り付けて、今日は昼も一緒に過ごせた。
どうやら本当に今までのタイミングの悪さは前回の仕返しだったらしい。
…みょうじは怒らせると怖いタイプかもしれねーな。


二人きりで帰れると思ってたら、園子まで残ろうとしてたから、慌てて止めに入る。

危っねー…
そういや、園子も俺の邪魔をする一人だってのをすっかり忘れてたぜ。


部活が終わって急いで着替えて教室に向かうと約束通りみょうじが残っていてくれた。
…ってかまた父さんの本かよ。
俺、こいつが他の本読んでるの見たことねぇんだけど。


『だって面白いんだもん』
「そりゃ面白いのは分かっけど…」


父さんの本読破するまで他の本は読まねぇ気か?
とか思って帰り道で聞いてみたら、蘭や河野がオススメだと言ってる本も読んでるって返された。
前言撤回、ってか訂正。こいつは父さんの本が好きなんじゃなくて、本を読むこと自体が好きらしい。


他愛ない話をしてるとあっという間にみょうじの家について…って、ここどう見てもファミリータイプのマンションじゃねーよな?


『見間違いじゃなくて一人暮らし用のマンションだよ』
「それって、」
『うん。あたし、一人暮らししてるの』


嘘だろ?
何処の世界に中1で一人暮らししてるヤツがいるんだよ。
日本じゃまず考えられねー…とか思ったけど、だからよく父さんと逢えてたのか、とも思えた。
家族と一緒じゃねぇから時間を自由に使えんのか。

でも、普段からずっと一人で過ごすって…


「寂しくねぇか?」


俺ん家は母さんがいる分、他の家庭より賑やかな気がすっけど、それでもこの歳で一人暮らしは寂しいだろ?


『寂しくないよ。一人が当たり前だったから』


みょうじはきょとんとした後で、笑いながらそう答えた。
きっとみょうじにとっては誰もいないってのが本当に当たり前のことなんだろう。
けど、それってただの育児放棄じゃねぇのか?


『家族っていうのはよく分かんないけど、先生たちと一緒にいるのは楽しいし、一人が寂しいって思ったことはないよ』


そう笑顔で言われた時、みょうじと俺の間に何だか見えない壁があるような気がした。

それからみょうじは夏休みの海がどうのとか言ってたけど、正直あんまり覚えてねぇ。


『それじゃあまた明日ね』


そう言ってマンションの中に入ろうとしたみょうじを気が付いたら呼び止めていた。
なんだか、みょうじがどっか知らねーとこに行っちまうような気がして、無意識の行動だった。

きょとんとしてこっちを振り返ったみょうじにどうすっかなぁって思ってたけど、丁度いい理由があったからどさくさに紛れて携帯のアドレスを交換した。


「俺が傍に居てやっから!」
『え?』
「いつでも連絡してきて構わねぇからな!」


みょうじの反応で俺の言葉が聞こえてなかったのは分かったけど、俺何口走ってんだ!?
自覚した途端に顔に集まりだした熱がみょうじにバレねぇ内に俺は背を向けて走り出していた。



「なぁ、母さん」
「なぁに?新ちゃん」
「今度夕飯にみょうじ誘っちゃダメか?」
「なまえちゃん!?もちろんいいに決まってるじゃない!じゃあ早速電話」
「待てって!誰も今日とは言ってね」
「何言ってるの!新ちゃんの気が変わらない内に呼ばないと“やっぱダメだ!”とか言われてもお母さん聞かないんだからね!」
「誰もんなこと言わねーよ!」



…俺はちょっと一人になりてーかも。


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