「悪ぃ…何か変なこと聞いちまって」
『気にしないで?普通中学生が一人暮らしなんてしないもんね』
「……」
あーあ、余計なこと言っちゃったかな?
工藤くんすっかり喋らなくなっちゃったよ。
まだ難しい顔してるし。
そんな顔より笑顔がみたいんだけどな。
まぁ、それはそれで心臓に悪いんだけどね。
『ねぇ、工藤くんはもう蘭に聞いた?』
「何をだよ?」
『夏休みにみんなで海行こうって話が出ててね。工藤くんも誘うって蘭が言ってたんだけど、聞いてない?』
「は?知らねぇけど?」
『そういう話があるの!まだあたしと蘭と園子と明日香しか決まってないけど、女子は蘭たちが男子は工藤くんが声をかけることになってるのよ』
「はぁ?んだよ、それ」
『ってことだから、楽しみにしてるね!』
「お、おう…」
『それじゃあまた明日ね』
やっとちょっと浮上してきた工藤くんに安心して、マンション前で立ち話してた場所から、エントランスへと続く扉を開けようとしたら呼び止められた。
「なぁ、みょうじ!」
『なぁに?』
「えっと…その………んねーか?」
『ごめん。聞こえなかったからもう一回言って?』
「あ、…だから…その…携帯番号、教えてくんねぇか?」
いつもの照れ隠しである視線を外して頬をかきだした工藤くんに笑顔で二つ返事をして、エントランスに入ろうとしてた歩みを工藤くんの元へと変換させた。
「サンキュな」
『ううん。気にしないで』
どうせ先生も有希子さんも知ってるんだし。
「……っから!」
『え?』
「いつでも連絡してきて構わねぇからな!」
少し顔を赤めた工藤くんは、それだけ言うとじゃあなと走って行ってしまった。
きっと工藤くんなりに気を遣ってくれたんだろう。
親子揃って世話好きなもんだ。
なんて思いつつ、そのキモチだけでも嬉しくて顔が緩んでしまうのを自覚しながら、今度こそエントランスへの扉を開けた。
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