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01. 始動


 ――コンコン

 時刻は夜の10時を過ぎており、寮生の部屋を訪ねるには遅い時間だった。
 自室の部屋のドアを叩くノック音を聞き、ジェイドはテラリウムの手入れをする手を止め、ドアへと目を向けた。一方、ベッドに寝そべりながら靴のカタログを見るフロイドは、ページをめくる手を止めることはなかった。ジェイドとは違い、カタログから目も離していない。この時間帯のリーチ兄弟の部屋に来る訪問客は限られている。フロイドは、どうせ今回もドアの向こうにいるのはアズールだろうと予想していた。

「フロイド、出てくれませんか? 今は少し手が離せなくて」
「え〜、やだ。オレだって手離せねぇし。
 てか、どうせアズールでしょ。
 アズールぅ? 用あんなら入ってきていいよぉ」
「……返事が無いところを見ると、アズールではないようですね」
「別にどっちでもいいけどさぁ。つかアズールじゃねぇなら、居留守使えばいいじゃん」
「フフ、僕達の会話は聞こえていると思いますから、それはどうですかねぇ。
 困りました。フロイドがどうしてもというのなら、別に僕が出ても構わないのですが……、今回はフロイドが出た方がいいと思いますよ」
「は? なにそれ。
 あ〜、めんど。いいよ、オレが出ればいーんでしょ」

 含みのある片割れの笑みを見ても、フロイドはドアの向こうにいる人物が誰であるかになんて興味が無かった。だからフロイドは驚いた。ドアの向こうにいた人物が監督生だったことも、ドアを開けた瞬間に、自分より頭一つ分小さい身長の監督生が、自分にいきなり抱き着いたことも、フロイドにとっては想定外のことだった。監督生が、予告も無く、オクタヴィネル寮をこんな時間に訪ねたのも、出会いがしらに抱き着かれたのも初めてのことだった。思わず目を見張り、数秒間は監督生のことを抱きしめ返すこともできず、固まってしまったくらいだった。

「……っとぉ。どぉしたの、小エビちゃん。
 もう夜遅いよ。なんかあった?」
「い、今はどうしてもフロイド先輩に会いたくて」
「……あは、今日の小エビちゃんは甘えただねぇ。
 いいよぉ。オレが優しくギューってしてあげる」

 フロイドの胸に顔を埋めている監督生には見えないが、フロイドは自分に抱き着く監督生を見て、愛おしそうに目を細めた。さっきは不機嫌に傾きかけていたのが嘘のように、フロイドの気分は上向きに修正されていた。その色違いの瞳は今や、どろりとした甘さで溶けている。甚く満足そうな笑みを浮かべて、フロイドは宣言通り監督生を優しく抱き締めながら、大きな手で監督生の頭を撫でた。
 監督生は、先日の作戦会議の時にジェイドに言われた通りに行動していた。
 ジェイドに『監督生さんが身を隠す前日、思いつく限りの方法でフロイドに甘えてください』と言われた時、監督生は困惑した。以前聞き及んでいた情報から、フロイドはべたべたされるのが嫌いだと思っていたからだ。今までも、フロイドからの接触は別として、監督生は自分からフロイドに甘えるようなことはあまりしてこなかった。そんなことをしてフロイドに『小エビちゃん、なんかうざい』とでも言われてしまうのが怖かったのだ。しかし、監督生の予想とは裏腹に、フロイドの反応は好感触だった。今のところ、ジェイドの言う通りの展開になっている。

「ジェイドぉ、悪いけどゲストルーム行っててくんね?
 前ゲストルーム使ったらアズールに怒られたから」
「かしこまりました。仕方がないですね。
 監督生さん、ゆっくりしていってくださいね」

 ジェイドが部屋から出ていくと、フロイドは監督生を抱き上げて、そのままベッドに移動した。フロイドがベッドに座ると、フロイドに抱えられた監督生は、フロイドに向き合うように膝の上に乗せられているような格好となった。

「ダメじゃん、こんな遅い時間に1人で出歩いちゃ。学校の中は安全だけどさぁ、なにあるかわかんねーんだから」
「ごめんなさい。フロイド先輩に会いたすぎてつい……」
「小エビちゃんがそーやって言ってくれんのは嬉しいけど。
 これからは夜会いたいって思った時はちゃんとオレに言って? そしたらオレがオンボロ寮行くか迎えに行くし」
「わ、わかりました。次からはそうします……!」
「ん。いー子」

 自分を見つめる金とオリーブが蕩けていることに気がついた監督生は、ジェイドの指示もあり、いつもなら滅多にしない大胆な行動に打って出る気になった。ニコニコと上機嫌で監督生を見るフロイドの両頬に手を添えると、監督生は自分からフロイドにキスをした。

「小エビちゃんてば、ほんとどーしたの? 今日はいつもより積極的じゃん」

 本日二回目の想定外の可愛らしい行動に、フロイドはまた意表を突かれ、目を丸くした。今や、フロイドの色違いの瞳は蕩けきっていた。フロイドの反応は、その全てが監督生の予想とは異なっていた。

「その……、今日はちょっとだけ我慢するのやめようかなって」
「なにそれ。いつも我慢してたってこと?
 小エビちゃんからチューとかされなくても、オレがするから別にいーしって思ってたけど……、こんなにいーなら、いつも積極的な小エビちゃんの方がいいなぁ。
 だからこれからは我慢とかしないで。ね?」
「そ、そうなんですか?」
「そーなの。
 てか、もー無理。小エビちゃんが可愛すぎて、今すぐシたいんだけど。…小エビちゃん、いい?」

 監督生が小さく頷く前から、フロイドの右手は監督生の服の中をまさぐっていたので、今更許可もなにも無かったが──、フロイドは一応許可が降りたのを確認すると、監督生に深く口付けた。
 



 自分の腕の中にあったはずの温もりが消えていたことに気付き、フロイドは微睡みの中で薄く目を開けた。美味しく頂いた後は、監督生を後ろから抱き締めて寝るのがフロイドの日課だ。閉じ込めた腕の中に感じる、自分より体温の高い監督生の温もりは不思議と心地良く、監督生の体温を感じながらベッドの中で微睡む時間をフロイドは気に入っていた。

「(小エビちゃん、どこ行ったんだろ。喉乾いて水飲みに行った? 早く戻って来ねぇかな)」

 すぐにベッドに戻ってくると思っていた監督生は、暫くしても戻って来なかった。机の上に監督生のスマホは置きっぱなしになっている。少し心配になったフロイドは、ふあと大きな欠伸をしながら、ベッドをのっそりと抜け出し、適当な衣服を身にまとった。

「小エビちゃーん?」

 オクタヴィネルの寮内にある厨房にいるのかと考えたフロイドはまず初めに厨房を覗いてみた。が、そこに監督生の姿は無かった。
 フロイドがいれば、強制的にシャワールームを貸し切りにするため話は別だが、他の寮生と鉢合わせる危険がある寮備え付けのシャワーを監督生が使っているとは考えられない。しかし、危機感が足らない恋人が、人がいないからと言ってシャワールームを使う可能性はわずかながらあった。フロイドは念のため、オクタヴィネルのシャワールームにも足を運んだが、ホリデー中の早朝に、シャワーを浴びている人物はいなかった。
 監督生がフロイドと付き合っているのは周知の事実であり、勿論、オクタヴィネルの寮生にもそれを知らない者はいない。だからこれも、あまり考えられない可能性ではあるが、自室を出た監督生がオクタヴィネルの寮生に絡まれたかもしれない――今度はそう考えたフロイドは、ホリデー中も寮に残っている寮生の部屋を片っ端から訪ねた。早朝の突然の来訪ということに加え、時にはドアを壊しかねない勢いでやってくる訪問客に、寮生は『ふざけるな』と文句を口にしようとした。しかし、訪ねて来たのがフロイドだとわかると、『ひっ』と小さく悲鳴をあげ、全員口を噤んでしまうのだった。寮生が監督生に何かしていようものなら、その寮生を絞め殺しそうな雰囲気のフロイドの表情が恐ろしかったからである。

「(小エビちゃん、部屋には連れ込まれてなさそーだけど……。
  まー、オレと付き合ってる小エビちゃんに手出すヤツなんて、少なくともオクタヴィネルの中にはいないかぁ)」

 監督生の身に何かあったわけではなさそうだと、フロイドはひとまず安心した。オクタヴィネルにいないなら、もしかしたら監督生はオンボロ寮に帰ったのかもしれない。きっとスマホは置き忘れたのだろう。フロイドは最終的にこの結論に辿り着いた。自分に何も告げず、オンボロ寮に帰ってしまった監督生には少し腹が立った。だから一言文句を言わないと気が済まないと、フロイドはオンボロ寮に向かった。頭に浮かんだもう一つの可能性をかき消すように、フロイドはオンボロ寮へと急ぐ。監督生がオクタヴィネル寮からオンボロ寮に黙って帰ったことなど、今まで一回も無い。だから何かがおかしいとは気付いてはいた。だが認めてしまったら、可能性が可能性ではなくなってしまう気がした。

「小エビちゃ〜ん! いるんでしょ?
 なんでオレに黙って帰っちゃうの」

 オンボロ寮の玄関で叫んだが、監督生の返事は無い。しんと静まり返ったオンボロ寮の静けさに、ドクドクと嫌な音をたてる心臓と、胸の内で大きくなる不安。それに気付かないフリをして、フロイドはズカズカとオンボロ寮に入っていく。

「小エビちゃんってばぁ、いるなら返事してよ」

「小エビちゃーん!」

「小エビちゃん、どこ〜〜〜?」

 大きな声で自身がつけた愛称を叫びながら、フロイドはオンボロ寮内の談話室や監督生の自室を覗いたが、監督生の姿は無い。

「どこ行っちゃったの。小エビちゃん……」

 オンボロ寮にある部屋を半分ほど探しても監督生が姿を現すことは無く、フロイドは廊下に立ち尽くした。思わず、誰に問うでもない問いかけを小さく口にすれば、キィ……と傍にあったドアが開いた。

「小エビちゃんっ?」

 ドアを開けたのが監督生だと思ったフロイドは顔を輝かせたが、それが勘違いだとわかると、すぐにまた元の曇った表情に戻った。

「フロイド、オメー朝からなんだってんだゾ!!
 今何時だと思ってんだゾ……。まだ朝の7時じゃねぇか。普段ならまだしも今はホリデーなんだから、もうちょっとゆっくり寝かせるんだゾ」

 出てきたのは、監督生ではなくグリムだった。監督生がいる時であれば、グリムは監督生の部屋で寝ることが多いが、監督生がいない時は、数あるオンボロ寮の空き室を気まぐれに使うことがあった。グリムは、フロイドが立っていた廊下にある部屋をたまたま使っていたのだ。

「アザラシちゃん……、小エビちゃん見てない?」

 フロイドはグリムの丸々とした体をガシッと掴むと、いつになく真剣な面持ちでグリムに尋ねた。グリムに尋ねているときのフロイドの表情には、いつも浮かべている真意が読み取れない笑みから感じられる余裕は無かった。グリムはフロイドの真顔に恐怖を感じながらも、いつもより幾分か弱々しいフロイドのことを不思議に思った。

「なに言ってんだゾ。子分なら、昨日の夜遅くにお前んとこ行ってから、まだ戻って来てねぇけど……。フロイド、お前と一緒なんじゃねぇのか?」
「ねぇ、ほんとに、小エビちゃん戻ってきてないの?
 間違いない?」
「オンボロ寮でアイツがいるとこなんて限られてんだゾ。アイツの部屋か、談話室にいねぇなら多分戻って来てねぇはず……なんだゾ」

 グリムが証言したにもかからず、フロイドはその後、オンボロ寮の全ての部屋を隈なく探した。フロイドは――そんなところに監督生が隠れているはずもないのに――ありとあらゆる扉や引き出しを乱暴に開けたので、フロイドの去った後のオンボロ寮はまるで強盗に荒らされた後のようになった。
 フロイドがオンボロ寮から離れたあと、グリムは空に向かって話しかけた。

「オイ、これどうするんだゾ……。フロイドのヤツ、めちゃくちゃ散らかしてったから片付けが大変なんだゾ。
 それにしてもアイツ、すげぇ必死でめちゃくちゃ怖かったんだゾ」
「お前さんの彼氏、まるで嵐のようだったね」
「透明マントの効果には驚いたもんだ。
 彼氏、結構野生の勘が働きそうなタイプなのに、お前さんがずーっとここにいることに気付かないんだから」
「……」
「子分、フロイドがいなくなったからもうマント脱いでも大丈夫なんだゾ!
 ってお前、顔すげー真っ赤なんだゾ。どーかしたのか?」

 透明マントを脱いだ監督生は、グリムと、集まってきたゴーストたちに、返事をすることが出来なかった。フロイドの予想外の行動に胸がいっぱいになっていたのだ。返事代わりに、監督生はぎゅっとグリムを抱きしめ、胸の高鳴りを落ち着けようとした。
 オンボロ寮に来てからのフロイドの行動を、透明マントを着た監督生は全て見ていた。フロイドが自分のことを、こんなに懸命に探してくれるなんて思ってもいなかった。だから、フロイドにジェイドが企てたドッキリのことを白状をしてもいいと思えるくらい、監督生はもうすっかり満足してしまった。





「フロイド! 突然今日は休むと言って一方的に連絡が来たかと思えば、その後はいくら電話しても繋がらないなんて……、困りますよ。
 お前には自覚が足らなすぎる」
「待ってください、アズール。少しフロイドの様子が変です」

 本来ならばモストロ・ラウンジで勤務の予定だったフロイドが、モストロ・ラウンジへ来たのは、モストロ・ラウンジが閉店した後だった。共にカウンターで閉め作業をしていたアズールとジェイドは、遅すぎるフロイドの登場に各々反応を見せる。アズールは、フロイドの勤務に臨む姿勢が不真面目なことに文句を言う。ジェイドは、珍しく意気消沈した様子のフロイドを見て、アズールを窘める。 
 ――勿論これは全部演技だ。ジェイドが企画したドッキリはアズールも承知の上。監督生がいなくなってしまったかもしれないとフロイドが思えば、モストロ・ラウンジの勤務など投げ出すことは目に見えていた。だから最初から、フロイドが抜けても支障が出ないよう、アズールはシフトを組み直していた。そのため、モストロ・ラウンジの経営上は何も問題は無い。二人はあくまで、フロイドがサボった時に自らがするであろう反応をしているにすぎなかった。アズールとジェイドの演技が完璧でなければ、フロイドに勘づかれる恐れがある。やるなら徹底的に、だ。

「フロイド、どうかしました? よく見たら服が随分汚れているようですが……」
「小エビちゃんが……、小エビちゃんがいなくなっちゃった」

 アズールもジェイドも、監督生が元の世界に帰ってしまったときに、フロイドがどうなるかは大体予想できていたが、二人の予想以上の反応をフロイドは示した。おそらく起きてから飲まず食わずで、監督生を探し回っていたのだろう。現れたフロイドは、監督生がいなくなったかもしれないとわかってから、まだ一日も経っていないにもかかわらず、少しやつれたようにも見えた。片割れと信頼する幼馴染の前では取り繕う必要も無いためか――、今にも泣き出しそうな震える声でフロイドは言った。不安からか、頼りなげに揺れている色違いの美しい瞳には陰りが見られた。

「……一体どういうことです?」
「朝起きたら、小エビちゃん、ベッドからいなくなってた。
 今日ずーっと探してたけど、オクタヴィネルの中にも、オンボロ寮にも、校舎にもどこにもいねぇの。
 小エビちゃん、どこ行っちゃったんだろ。行くとこなんてねぇはずなのに」
「誰かに攫われた……ということは無さそうですね。
 ナイトレイブンカレッジには強力な防護魔法がかけられています。外部からの侵入者が感知されれば、すぐに警報が鳴り、魔法警察が飛んでくるはずですから」
「そうですね、アズールの言う通り、その線は薄そうです。
 監督生さんは、昨日の夜から今日の朝までずっとフロイドと一緒にいましたから、監督生さんに何かあれば、傍にいたフロイドが気付かないことは考えられませんし」
「うん……。多分、攫われたとかは、ねぇと思うけど」
「とにかく、立ち話もなんですから座りなさい。
 ジェイド、フロイドに、気分を落ち着けるハーブティーを」
「かしこまりました」

 カウンターの椅子に腰かけたフロイドは、ジェイドが淹れたハーブティーのおかげもあってか、少し落ち着いたようだったが、相変わらずその表情は暗く沈んでいた。
 長年、気分の浮き沈みが激しいフロイドの傍にいるジェイドとアズールだったが、ここまで落ちたフロイドを見るのは初めてだった。そんなフロイドを見て、アズールは思わず慈悲の心をかけたくなったが、留まった。ドッキリの種明かしをした後は、これまで以上にフロイドと監督生は深く愛し合うのだろうと思うと、ここで慈悲の心をかけてやるなんてバカらしいと思ったのだ。今が多少辛かったとしても、別に構わないだろう。自身に恋人がいないことも手伝い、アズールはいつも以上に意地悪になっていた。
 フロイドも気付いているはずだが、口にするのがはばかられるのか、もう一つの可能性についてフロイドが言及することが無かった。そんなフロイドをアズールは気遣い(気遣う素振りを見せつつ)、フロイドの肩に手を置くと、諭すように話す。

「フロイド、落ち着いて聞きなさい。
 あくまで可能性の話ですが……、もしかしたら、監督生さんは元の世界に帰られたのではないですか?」

 アズールの展開した持論を聞き、フロイドは肩に置かれたアズールの手を払いのけた。

「違ぇよ!
 だって、小エビちゃんは帰る方法まだ見つかんないって言ってたもん」
「しかし、監督生さんが別の世界の人間だということをお聞きした時、監督生さんはこうも言っていましたよね。どうやってこの世界に連れて来られたかもわからない……と。ならば当然、突然元の世界に連れ戻されるということも、あり得ない話ではないのでは?」
「そんな……、そんな訳ねぇし。
 だって、小エビちゃん、帰るときはオレに言うって約束したもん」
「フロイド、予測しようがないことは監督生さんも言い様がないでしょう」
「それに、よく考えれば、彼女にとっては良いことかもしれませんよ。
 今頃、元の世界に帰ることが出来て喜んでいるかもしれません。彼女がもういないと考えると、少し寂しくなりますが」

 アズールに反論するフロイドの語気こそ強かったが、表情は悲壮感に満ちていた。フロイドもわかっているのだ、アズールの言うことが正しいと。でも、わかってはいてもどうしても認めたくない。

「ぜんっぜんよくねぇし! アズールなに言ってんの。……小エビちゃんは、オレに黙って帰ったりしねぇもん」
「待ちなさい、フロイド! どこへ行く気ですか」
「オレ、小エビちゃんもう1回探してくる」
「もうこんな時間です。探すにしても明日にしたらどうですか」
「……やだ」
「アズール!」
「わかっていますよ」

 フロイドは踵を返したが、アズールはこれ以上フロイドが無理をしないようにと、致し方なく失神魔法をかけた。
 アズールのペースが乱すことが出来る人物というのはそういないが、フロイドはそんな数少ない奇特な人物の一人だった。そう、アズールがジェイドのドッキリに乗っかったのは、フロイドのペースが乱される所を見たいと思ったからである。しかし、そんなことを思いつつ、幼馴染であるフロイドのことを心配する気持ちも一応持ち合わせているのが、アズール・アーシェングロットという男であった。
 アズールが魔法をかけたと同時に、フロイドのもとへと走り寄ったジェイドが、意識を失い倒れ掛かったフロイドを支える。

「ジェイド、これは計画を早めた方がよいのでは?
 これでは、フロイドの身体が心配です」
「どうやらそのようですね」


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