bookshelf twst | ナノ




 転ばされた小エビちゃんに魔法薬塗ってあげた日から、小エビちゃんは前よりオレのこと怖がんなくなった。別にお礼なんていーって言ったのに、小エビちゃんは、魔法薬のお礼にって、今度はマフィンを作ってオレに渡して来た。はっきり言って、それも全然おいしくなかった。なんか変にべちゃってしてたし。こないだのクッキーがまぐれで上手く出来なかったのかもってちょっと思ってたけど、小エビちゃんにお菓子作りの才能はあんまり期待しない方がいーのかもね。
 そーいえば、クッキー貰ったときもマフィン貰ったときも『ありがと』って、小エビちゃんに言ってなかったかも。小エビちゃん、半分押し付けるみたいな感じで渡してきて、オレがお礼言う前に逃げちゃうんだもん。あ、そうだ。いーこと思いついた♪

「小エビちゃんって、何すれば喜んだりすんのかな」
「おやおや。いきなりどうしました?」

 人間のメスが好きなものとかわかんねぇから、ちょうど部屋にいたジェイドに聞いてみた。アズールに聞いてもいーんだけど、ミドルスクールの時、アズールよりジェイドの方がモテてたし、とりあえずジェイドにはじめに聞いとこーかなって。
 ジェイドは、オクタヴィネルのオレらの部屋で、いつもみてぇに椅子に座ってキノコ関連の本読んでた。オレが話しかけると、ジェイドは読んでた本を閉じてベッドに寝そべってるオレを面白そうに見た。あれ、いつもは話しかけても、ジェイド本読むのやめねぇのに。特にキノコの本読んでる時なんか、返事してもテキトーなのしか返って来ねぇのに。珍しー。でも、この前からなーんか、オレが小エビちゃんのこと話してるときの、ジェイドとアズールの態度が気に食わねぇんだよなぁ。まぁ今は言わねぇけど。
 
「別に? この前、小エビちゃんにクッキーと……、あとマフィンもらったじゃん。
 ただの気分でしたことに、あんなんされても困るし。
 小エビちゃんに変な借り作りたくねーから、なんか対価になるよーなもんあげよーかなって」
「ほう……。
 ミドルスクールで付き合っていた彼女たちに、色々贈り物をされても何も返さなかった貴方が、お返しをしようと思うなんて。これはまた随分珍しいですね」
「なんで今、元カノの話が出てくんのぉ?
 そんなの、アイツらがオレのことが好きで勝手にやったことじゃん。嬉しくもねぇのにそんなのに返すとかしねぇし」
「でも、監督生さんには返すんですね。
 もしかして……、好きなんですか?」
「……は?」
「すみません。
 こんなフロイドは見たことがないので……、てっきり、監督生さんのことがお好きなのかと」
「んな訳ねぇじゃん。なに言ってんの? 人間だよ。人間に恋するとか、昔居たお姫様じゃねぇんだからさぁ」
「でも、今は種族を超えた恋愛が特に珍しいわけでもないでしょう? 人間と結婚する人魚だって一定数いるじゃないですか」
「確かにそーだけど。
 陸より海で生きてく方が大変だから、人間と人魚が恋愛すると、大体人魚が人間に合わせんじゃん。陸も悪くねぇけど、ずーっと人間に合わせて陸で生活し続けんの、オレめんどくてやだぁ」
「なるほど。では人間である監督生さんも当然、恋愛対象にはならないと。そういうことですか?」
「当たり前じゃん。
 てか話ズレてるし。ジェイド、質問に答えてよ」

 ジェイドが急に変なこと言い出したからびっくりした。オレが小エビちゃんを好きとかありえねぇんだけど。人間とかまずそーいう対象にならねぇでしょ。大体オレらの元々の姿と全然違う見た目してんだから、交尾した時興奮できる気がしねぇし。まぁ、小エビちゃんのことは、ちょっとは気に入ってるかもしれねぇけどさぁ。多分、小エビちゃんに構いたくなんのは、金魚ちゃんで遊びたくなんのと同じ感覚。好きとかそんなんじゃねぇし。

「監督生さんが喜ぶもの、でしたね。
 そうですねぇ……。監督生さんは、甘いものが好きではありませんでしたか?」

 そっか、ジェイドの言う通りかも。確かに、甘いの好きじゃなきゃ、お菓子なんて作ろーと思わねぇよね。そーいえば、小エビちゃんが大食堂で菓子パン持ってたの、ちらっと見たことある気がする。

「せっかくですから、モストロ・ラウンジで使えるサービス券などあげてはいかがでしょう」
「それいーじゃん、ジェイド!
 小エビちゃんって、あんまりラウンジ来ねぇもんね」
「モストロ・ラウンジで提供している商品は安くはありませんからね。
 監督生さんはあまり気軽に来れないのでしょう」
「あはは。小エビちゃん、貧乏だもんねぇ」

 ラウンジのサービス券あげるってアズールが知ったら『タダでラウンジを利用するなんて絶対にダメです!』とか言って怒りそうだけど、オレの給料から天引きしといてって言えば、アズールも文句言わねぇでしょ。
 やっぱジェイドに聞いて良かったぁ。渡すなら早い方がいーよね♪ 明日、さっそく小エビちゃんに渡しにいこーっと。

 あ、そーいえば。ちょっと心配だったこと、ジェイドに聞こって思ってたのに、さっきまで忘れてた。オレ、ビョーキかもしれないんだった。大したことねぇとは思うけど。またすぐ忘れそーだし、覚えてる内にジェイドに聞いとこ。
 
「ジェイド、ビョーキかもしんないんだぁオレ」
「それは大変ですね。すぐに魔法医術士に見て貰わなければ。
 参考までに、自覚症状を聞いてもよろしいですか?」
「なんか、小エビちゃんといると、心臓が超いたくなる時あんだよねぇ。バクバクしたりズキズキしたりすんの。
 ほっとくと収まるからなんでもねぇとは思うんだけど」
「ふふ…っ。ふふふふ」

 『ビョーキかも』って話し出した時は、ジェイドは真剣にオレのこと見てたのに。オレがどんな時ビョーキって心配になんのか話したら、ジェイドは一瞬真顔になったと思ったら、次の瞬間にはめちゃくちゃ笑ってた。

「えぇ?! 怖いって! ジェイド怖いから! なに? なんで笑ってんの?!」

 こんなにジェイドが笑うことってあんまねぇからマジで怖い。オレ、笑われるよーな変なこと言ってねぇのに。

「フロイド、貴方、自分に向けられる矢印にはよく気付く方ではありませんでした? 自分のことになるとこうも……、ふふふふふ…っ。これはおもし、いえ、何でもありません」
「はあ? ちょっとなに言ってんのかわかんねぇんだけど。てか今なんか言いかけただろ。言いたいことあんならはっきり言えよ」
「大丈夫ですよ。それは病気ではありませんから。あぁでも、捉え方によっては病気と言えるかもしれませんねぇ」
「訳わかんねーんだけど。結局どっち?」

 ジェイドはオレが引くぐらい笑ってた。結局、オレがビョーキなのかどうかはっきり言わねぇし。マジで何なの? でも、ほんとにビョーキだったら多分ジェイドは本気で心配するだろうし、きっとなんでもないんだろーね。



 

 ジェイドと話した次の日の休み時間に、一年の小エビちゃんがいる教室にジェイドと行った。小エビちゃんは、オレらが教室の入口に立ってんのがわかると、面白い顔してびっくりしてた。

「小エビちゃーん、いる〜〜〜?」
「フ、フロイド先輩、ジェイド先輩……!
 ど、どうされたんですか?
 あっ、バスケ部のことでエースに用事とかですか?」

 小エビちゃんは、オレと同じ部活のカニちゃんに用があるって勘違いして、最初カニちゃんを呼ぼうとした。

「いえ、エース君ではなく、フロイドが用があるのはあなたですよ、監督生さん」
「えっ。私ですか……?」

 そうじゃなくて用があんのは小エビちゃんってジェイドが言ったら、小エビちゃんは、さっきよりもっと面白い顔して、オレらのとこに駆け寄って来た。

「小エビちゃんって、料理下手くそだよねぇ」

 オレがそーいうと、小エビちゃんは何のことを言ってんのかすぐ分かったみたい。

「やっぱり今までお渡ししたの、美味しくなかったですか」

 小エビちゃんはギュッて唇噛んで、悲しそうな顔してた。別に事実言っただけなのになぁ。だけど、小エビちゃんのこーゆー顔はなんか見たくないかも。

「でも、あんなんでも貰いっぱなしは、借り作るみたいでやだから。
 だからこれ、小エビちゃんにあげる」
「……なんですか? これ」
「ラウンジで使えるサービス券でぇす。
 それ出せば好きなパフェ、オレが無料(ただ)で小エビちゃんに作ってあげる。
 最近、アズールが新メニュー開発しろってうるさいんだぁ。だから、そのついでね。
 あ、オレがいる時しか使えねぇから、オレが部活ない日に来てね♪」
「えっ……、モストロのパフェって結構お高いですよね……?!」
「いいんですよ。フロイドも言いましたが、新メニューの開発に手伝って頂くのですから、僕達にもメリットはあります」
「で、でも、お渡ししたお菓子は、どっちもフロイド先輩へのお礼で渡したものですし……、そのお礼に更にお返しをもらう訳には……!
 あと、私が渡した下手なお菓子に対する対価がこれって、明らかに貰いすぎですし」

 素直に貰っとけばいいのに、小エビちゃんはなかなか受け取ろうとしなかった。オレらから対価なしで何かしてもらうのが、そんなに怖い? 確かに、アズールのイソギンチャクたち解放されたら困るから、小エビちゃんたちの邪魔はしたけどさぁ。小エビちゃんには、それ以外のことは何もしてねぇのに。小エビちゃんって、どっかでオレらの噂でも聞いてんのかな。これって、今までの行いが悪いとかゆーやつかも。

「さっきも言ったじゃん。オレ、借り作るの嫌いなの。
 お礼されるよーなことした覚えねぇのに、結局もらったお菓子全部食べちゃったから。そのままにすんのは何かイヤなんだぁ」
「でも……」
「小エビちゃん、さっきから『でも、でも』うるさぁい。
 そんなにオレがすることがイヤ?」
「そ、そんな、滅相も無いです」 

 まどろっこしーことはキライ。オレがいーって言ってんだからいーじゃん。受け取れないって意思表示を続ける小エビちゃんの手を掴んで、無理やりサービス券を押し付けた。そーまでしてあげたサービス券を、小エビちゃんはオレに返そうとはしなかった。

「そぉだ。小エビちゃん、好きなフルーツとかあったら教えてよ」
「な、なんでも食べられますけど……」
「あは、そーいうのが一番困んだけど」
「可能であれば、監督生さんの好きなフルーツをご用意致しますよ。
 気分さえ乗っていれば、フロイドの料理の腕前は素晴らしいものがありますから。監督生さんもきっとお気に召すかと」
「い、一番好きなのは、桃……ですかね」
「桃ね。オッケー。オレ、おいしいの作るから。
 待ってるね、小エビちゃん」
「監督生さんの近日中のご来店、心よりお待ちしております」

 おどおど戸惑ってる小エビちゃんに『返品はできませぇん』って最後に言って、次の選択授業の教室にジェイドと向かう。サービス券、小エビちゃんに渡せて良かったぁなんて思ってたら、ジェイドがわざとびっくりした顔で、オレに言ってきた。
 
「知りませんでした。
 この前、アズールに新メニューの開発をさせられたばかりなのに、また頼まれたんですか?
 僕からも、後でアズールに確認しておかなければ」
「……ジェイド、わかってて言ってるでしょ」
「おや、何がです? 僕はただ、僕が把握していないことがあれば確認しなければと」

 ウニちゃんか誰かにも言われてたけど、ジェイドって、わかってること聞くのが趣味だよねぇ。今までジェイドのこーゆうとこにムカついたことなんて無かったけど、今はちょっといい性格してんなって思う。オレも人のことは言えねぇけどさぁ。
 
「あれはただ、テキトーに言っただけだし。
 だってあーいう口実が無いと、小エビちゃん断りそうじゃん」
「素直に言えばいいじゃないですか。監督生さんから手作りのお菓子を貰って嬉しかったと」
「ちっがうし!
 オレ嬉しいなんて一言も言ってねぇじゃん」
「そうなんですか?
 僕が監督生さんのクッキーを貰おうとしたら怒りましたし、クッキーもマフィンも随分大切そうに食べていたので、てっきりすごく嬉しかったんだと思ったんですが……」
「違うって言ってんじゃん!
 ジェイドうざっ。今はただ、飽きるまで小エビちゃんに構いたい気分なだけだし。他に意味なんてねぇから。
 も〜この話終わりっ。だから変なこと言うのやめて」
「ふふふ。はい、わかりました」


back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -