bookshelf twst | ナノ




 この前から絶対なんかおかしい気がする。
 だって、ラウンジで働くとか気が乗らない事の方が多いのに、最近は毎日楽しいとか、おかしいんじゃねぇのオレ。それに、小エビちゃんがもしかしたら来るかもって、入り口ばっかりやたら気にしちゃうんだよなぁ。それでアズールに仕事に集中しろって怒られるし。

 小エビちゃん、いつ来るんだろ?

 多分小エビちゃんは、オレが料理超上手いって知らないから、ぜってぇびっくりするでしょ。どーせだから、小エビちゃんの目がキラキラするようなかわいーやつ作ったげよ。楽しみだなぁ、小エビちゃんが来るの。

 
「小エビちゃん……、ぜんっぜん来ねえじゃん。
 小エビちゃんのくせに、オレのこと待たせるとか生意気じゃね?」

 ずーっと待ってんのに、小エビちゃんは来ない。
 部活ない日は、全部活共通で、火曜日と木曜日。部活入ってない小エビちゃんも、オレと同じバスケ部のカニちゃんと一緒にいるんだから、部活ない日くらい知ってるでしょ。
 なのに、小エビちゃんにサービス券渡してから、もう一週間以上経ってた。今日は木曜日。確か、小エビちゃんにサービス券渡したのは先週の水曜日だった。だから、今日小エビちゃんが来なければ、小エビちゃんはラウンジに来れるチャンスを3回スルーしたってことになる。

「オレがいない時に来たりしてねぇよね?」
「それは無いと思いますよ。
 第一、フロイドがノートを破った切れ端で作った即席のサービス券は、貴方がいる時にしか有効ではないでしょう?」
「そーだよねぇ。
 小エビちゃんってば、いつまで待たせる気なんだろ。オレ小エビちゃん待つの、そろそろ飽きそう」
「……このまま待ったところで、監督生さんはラウンジに来てくれるんでしょうか」
「え。ジェイド、どーゆう意味?」
「そもそも監督生さんは、はっきり『行く』とフロイドに返事はしていなかったと思いますが」

 ……そーいえばそーだったかもしんない。
 小エビちゃん、このまま来ねぇつもりなのかな。小エビちゃんが来た時のために、カウンター席にずっと『Reserved(予約席)』の札置いてんのに。小エビちゃんが来たらパフェ作ってあげないとだから、カウンター入んの嫌いなオレが、カウンター入ってんのに。そーいうの全部無駄だったとか、萎える。
 こんなことになんなら、有効期限とか書いとくんだった。それか『来ないと絞めちゃうよ』って言うかすれば良かったなぁ。小エビちゃんのバカ。

「これは珍しいお客様だ。
 監督生さんではないですか。
 ようこそ、モストロ・ラウンジへ。どうぞ、ゆっくりなさって行ってください」

 アズールのわざとらしー歓迎の声が聞こえて、ラウンジの入り口見たら、前みたいにビクビクしてる小エビちゃんがいた。
 そうだよね、来るよね。ちょっと考えれば小エビちゃんが無料(ただ)で食べれる機会逃すはずねぇってわかるじゃん。オレ何悩んじゃってたんだろ。ほんと小エビちゃん、来るの遅すぎ。もーオレ待ちくたびれちゃった。
 オレをこんなに待たせたんだから、一言くらい小エビちゃんに文句言ってもいいでしょ。そんで、文句言うついでに出迎えしてあげよっ。
 そう思ってラウンジの入り口に行ったら、小エビちゃんは一人じゃなかった。

「こ、こんにちは、フロイド先輩」
「こんちは〜…!」

 小エビちゃんの後ろには、オレも部活で見る、小エビちゃんと大体いつも一緒にいるカニちゃんがいた。

「……なんでカニちゃんもいんの」
「だーから言ったじゃん。
 オレぜったいお呼びじゃないってさぁ。オレ帰るから。やっぱここは、監督生一人で楽しんで来いよ!」

 そーそー、カニちゃんのことは呼んでねぇから。
 さっすがカニちゃん。色んな奴からコミュ力高いって言われるだけあって、空気読めてんじゃん。偉いねぇ。後でいっぱい褒めてあげよって思ったのに、せっかく引き返そうとしたカニちゃんを止めたのは、小エビちゃんだった。

「エース……!
 やめて、お願い! そ、そんなに高いのは無理だけど、飲み物くらいなら奢るから……。お願いだから、私を一人で置いて行かないで……!」
「わかった、わかった!
 だから、そんな引っ張るなって」
「……帰らない?」
「しょーがねぇから、今日の所はお前に付き合ってやるよ。
 だからマジでそろそろ、その手離してくんない?」 

 小エビちゃんはカニちゃんの腕に抱きついて、帰ろうとするカニちゃんをすげぇ必死に引き留めてた。カニちゃんはそんな小エビちゃんの頼みを仕方なく聞いてあげてた。ふ〜〜〜ん、そんなにカニちゃんと一緒にいたいんだ。……別に、どーでもいーけど。

 訳わかんない。小エビちゃんが来るの、楽しみにしてたはずだったのに。小エビちゃんが来たのに、全然楽しくなかった。
 小エビちゃん、なんでカニちゃんと来てんの。いつも一緒にいるもう一人と一匹もいるならまだわかるよ。だっていつも三人と一匹で群れてるじゃん。なんで今日は、カニちゃんと二人だけなわけ?
 しかも、人前であんなベタベタしてるし。

「監督生ってばぁ、顔緩みっぱなしだよー?」
「エース! そのノリ今はやめて……!」

 カウンター席に座った小エビちゃんとカニちゃんが何話してるのか気になって、なんか料理にうまく集中できなかった。当たり前だけど、カニちゃんと話してる時の小エビちゃんは、カニちゃんに気遣ってないし、オレと話している時より楽しそー。

「エース君と監督生さんって、とても仲がよろしいですよね。そういえば、以前、監督生さんがバスケ部の試合にエース君を応援に来ていたのを見かけたことがありました。
 もしかして、二人は交際していたりするんでしょうか?」
「オレが知る訳ないじゃん。小魚たちのことに興味ねぇもん。
 ジェイド、なんでそんなことオレに聞くの」
「いえ、別に。少し気になったものですから」

 パフェグラス用意してる最中に、ジェイドがオレにだけ聞こえるよーに耳元で喋りかけてきた。
 小エビちゃんとカニちゃんが付き合ってるなんて、聞いたことなかったし、多分違う。だけどもし、ジェイドが言う通り、小エビちゃんとカニちゃんが内緒で付き合ってて、小エビちゃんがカニちゃんの彼女だったら……、どーなるんだろ。考えたら心臓が今までにねぇくらいズキズキし出した。だから考えんのはやめた。あーあ、もう最悪。

「もー、オレ料理する気分じゃなくなったぁ。ジェイド、オレの代わりに小エビちゃんに作ってあげてよ」
「……僕は構いませんが、本当によろしいんですか?」
「いーよもう。やる気失くした」
「かしこまりました。仕方ないですね。
 気分が乗らないと、味も大変な有様になってしまいますから」

 こんな最悪な気分で小エビちゃんに料理作ってあげたくない。今料理したら、料理下手な小エビちゃんが作るよりまずいの出来ちゃうかもしれねぇし。だから小エビちゃんのためにも、ジェイドに代わりに作ってもらおーと思った。

「すみません、監督生さん。
 急にフロイドの調子が悪くなってしまったようで……、僕が代わりに作らせていただきますね」
「えっ……、フロイド先輩が作ってくれるんじゃなかったんですか?」
「そのつもりだったけど、気分じゃなくなった〜。
 ごめんねぇ、小エビちゃん。オレのはまた今度ね」
「それは……、残念です。フロイド先輩が作ったパフェ……、せっかくなので食べたかったです」
「え、」

 ジェイドがオレの代わりに作るって聞いた小エビちゃんは、肩落としちゃったりなんかして、わかりやすくしゅんってしてた。ジェイドだって料理できるし、おいしーの食べれんなら、誰が作っても同じじゃん。それなのに、オレが作らないって聞いてこんなに落ち込むなんて、小エビちゃんってば変なの。

「フロイド先輩が作ってくれるの、私、すごく楽しみにしてて……。
 でも、気分じゃないなら仕方ないですよね! フロイド先輩のパフェは、また今度、マドルが貯まった時の楽しみに取っときます」
「小エビちゃん、そんなにオレが作ったのがいーの?」
「は、はい。それは勿論」
「そうなんだぁ。
 ……あは、小エビちゃんがそんなに言うなら、しょうがないなぁ。オレが作ってあげる」
「え! いいんですかっ? 気分じゃなかったんじゃ……」
「いいよぉ。なんかやる気出てきたぁ」

 オレの気分のスイッチが切り替わるきっかけが、小エビちゃんなんて意外〜。オレが作ってあげるって言ったら、さっきまで暗かった小エビちゃんの顔は、わかりやすく明るくなった。それ見たらさっきまで最悪だった気分が、今は結構いい感じになっちゃったんだよねぇ。だからなのか知らねぇけど、オレ天才じゃね?って思うくらい、小エビちゃんのために作ったパフェの出来栄えは最高だった。変に張り切っちゃって、桃を飾り切りして花の形に盛り付けたり、クリームの絞り方や色合いにも拘っちゃったりなんかした。出来上がったパフェを小エビちゃんに出したら、小エビちゃんは目キラキラさせて喜んでた。

「小エビちゃん、はいどーぞ」
「すごい! え、フロイド先輩ってこんなにお料理出来たんですか?」
「まぁねぇ。別に慣れたら簡単だよぉ」
「桃が薔薇みたいになってる! 私なんて、桃の皮剥くのもうまくできないのに」
「小エビちゃんさぁ、いつまでも眺めてないで、早く食べなよ」
「食べるのが勿体ないくらい綺麗なので……! まるで宝石みたい。
 フロイド先輩って、料理にも魔法使えたんですか……っ?」
「いや〜、ほんとすげぇわ。
 ケイト先輩が見たら『マジカメ映え〜』って騒ぎそうだよねー。
 綺麗なケーキは、なんでもない日のパーティーにトレイ先輩が出すケーキでオレも見慣れてんのになー」
「エース、後で見返したいから、エースのスマホで写真撮っといて……!」
「はいはい、かしこまりましたよーっと」
「あはは。カニちゃんも小エビちゃんも、大袈裟すぎ〜」

 確かにうまくできたけど、料理がうまくできんのってそんな大したことじゃなくね? だから、小エビちゃんがこんなにはしゃいでんの、正直ちょっとよくわかんない。でも、なんでか小エビちゃんに褒められるのはテンション上がんだよなぁ。

「おいしー? 小エビちゃん」
「はい! 今私、すごく幸せを噛みしめてます……っ」
「ふふ。よかったぁ」

 小エビちゃんが幸せそーだとオレも嬉しくて、なんかほわほわする。前もこんなことあった気がすんだけど、あれいつだったっけ?

「新メニューにこれ追加されたら、定期的に食べに来たいです!」
「……そぉ。そんなに気に入った?」
「はい! とっても可愛い見た目な上、味もすごく美味しいんですもん。こんなの、素晴らしすぎる癒し効果です……!」
「ちょっと褒めすぎでしょ。小エビちゃん、ほんとに思ってんの?」
「思ってますよ! 当たり前じゃないですか」

 あ。そういえばそーゆーことになってたっけ。うーん。ニコニコしてる小エビちゃんには悪いけど、これ絶対定番にはなんないんだよなぁ。小エビちゃん用に特別に作ったから、材料贅沢に使ってて費用対効果とか考えてねぇし、アズールに新メニューにどうって言っても多分却下される。

「おやおや。これは困りましたねぇ。どうするんですか、フロイド」
「マジでジェイド、余計なこと言わないでよ」
「おや、余計なこととは?」

 小エビちゃんたちの相手ばっかりしてる訳にはいかねぇから、この前ふわふわしたのはいつだったかなぁなんて考えながら、仕込み作業をやってた。だけど、小エビちゃんがカニちゃんに話しかける声はそんな中でもはっきり聞こえてて。

「エースも食べる? その、無理矢理付き合ってもらったお礼に」
「え、いいのかよ」
「いいよ、ちょっとくらい。
 そんなに私ケチじゃないから。
 すごい美味しいからびっくりするよ」
「ラッキー♪ サンキュー、監督生!」

 小エビちゃんは、カニちゃんにお裾分けしよーとしてた。
 一人一つ頼んでくれた方が儲かるから、アズールはあんまり客に取り分けさせんなって言うけど、オレもちだし、今回は問題ないでしょ。
 そう思って、小エビちゃんたちに、取り分け用の皿をあげよーと思って用意したのに、それは必要ねぇみたいだった。 

「うまっ。え、まじでうまいんだけど」

 小エビちゃんは、作ってあげたパフェの一口分をスプーンですくうと、カニちゃんの口の前に持ってった。カニちゃんも小エビちゃんがしたことに別に驚いたりしてなかった。小エビちゃんに言われるまま、口を開けてそれを食べるカニちゃん。

「てかさ、監督生が作ったお世辞でもうまいとは言えないお菓子のお返しがこれって、ぶっちゃけ棚ぼたすぎでしょ」
「私もそれはめちゃくちゃ思う……」

 え。小エビちゃんがオレにくれたおいしくないお菓子、小エビちゃん、カニちゃんにもあげてたんだ。……オレだけが貰った訳じゃなかったんだ。

「ねぇ、なにやってんの?」
「え……?」

 小エビちゃんが二口目をカニちゃんにあげようとした時、気付いたら小エビちゃんに話しかけてた。そん時、思ったより低い声が出たのにびっくりした。もしかしてオレ今、怒ってんの? でも何に? わかんね。けど、さっきまで良かった気分が、また最悪に戻ったってことだけはわかる。

「ありえないんだけど。なんでオレが作ったの、他人(ひと)に上げてんの? ふざけてる?
 小エビちゃんにあげたんだから、カニちゃんにあげちゃダメでしょ。
 悪いけど、そーいうことすんなら帰ってくんね?」

 返事しない小エビちゃんの顔みたら、小エビちゃんは泣きそうな顔してた。さっきまですげぇいー感じだったのになぁ。これじゃ全部ぶち壊しじゃん。
 自分でも、訳わかんねぇこと言ってんなって感じだった。オレだって、カニちゃんにあげんのは別にいーってさっきまで思ってたんだし。なんで急に嫌になったんだろ。

「これは失礼致しました。
 監督生さん、エース君、今のフロイドのことは気にせず、どうぞ、ゆっくりなさって行ってくださいね。よろしければ、ドリンクのおかわりなどいかがでしょう」

 ジェイドがオレの前に出てきて、小エビちゃんとカニちゃんにオレの代わりに謝った。
 なんでそんな余計なことすんのなんて、ジェイドに言わない。だって今のは多分、オレが悪いもん。

「なぜあんなことを言ったんですか。監督生さん、怯えた顔をしていましたよ」
「そんなんオレだって知らねぇし。勝手に口が動いてたんだもん」
「フロイド、正体がわからないものをそのままにしておけば、いずれ嫌われてしまうかもしれませんよ」
「は? なんでそーいうこと言うの」
「とにかく、監督生さんに謝ることです」

 小エビちゃんに嫌われるってなに? 別に今だって好かれてはねぇんだし、大して変わんなくね? なんでジェイドはそんなことでオレのこと脅してんだろ。マジでジェイド意味わかんねって思ったけど、試しに小エビちゃんに嫌われるの想像したら、心臓がギューッてなるあのビョーキにまたなった。えぇ、もしかしてオレ、小エビちゃんに嫌われたくないって思ってんの?

「フ、フロイド先輩」

 食べ終わった小エビちゃんはオレと話さないでそのまま帰るかと思ったのに、カニちゃんを先に行かせて一人で戻ってきた。小エビちゃんは、カウンターにいたオレに、恐る恐るだけど話しかけてくれた。さっき泣きそうな顔してたから、オレに話しかけるの怖かったと思うのに。

「ごめんなさい。私、フロイド先輩のこと、不快な思いにさせてしまって」

 小エビちゃんは何も悪くない。だから小エビちゃんが謝る必要なんてねぇのに。
 なんであんなこと言っちゃったんだろ。ジェイドに小エビちゃんに謝れって言われたし、そーした方がいいと思う。けど、なんて言って謝ればいーのかわかんない。『小エビちゃんとカニちゃんが話してんの聞いてたら、なんでかわかんないけど急にイラついて変なこと言っちゃった』って言えばいーの? それは違う……、いや違くねぇけどそれはなんか言いたくない。てか謝るってどうすんだっけ……。家族以外に謝ったこと、ほとんど無ぇからわかんねぇんだけど。

「あ、あの! お金貯まったら、また来てもいいですか」

 小エビちゃんに、また来てもいーか聞かれるなんて思わなかった。意味わかんないことでキレたのに、小エビちゃんはオレに怒ってないみたいだった。

「……うん。いつでも来て。
 オレ待ってるから」

 小エビちゃんに、すぐ返事ができなかった。やっと返事できたと思ったら、今のオレの声なの?ってくらい、情けない声出ちゃったし。オレなんかかっこわる。

「絶対来ます!」
「……約束ね?」
「はい!」

 小エビちゃんがオレに笑ってくれた。小エビちゃんは、また来るって約束してくれた。
 なんでかわかんねぇけど、そんなことにオレはすげぇホッとしてた。


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