アカデミー【決別】(2)


その日は、くノ一クラスの授業だった。

くノ一だけだと人数が少ないので、二つのクラスが合同で行う。



今日は自然が広がる花畑に来ていた。



「くノ一は忍術だけでなく、女性としての幅広い知識と教養を身につけなければなりませんよ。敵地に潜り込み、普通の女性として振る舞えなければ、スパイ活動をする際などにも苦労しますからね」



くノ一の先生が生徒を集めて今日の授業の説明をする。



「今日の授業は生け花です!では皆さん、思い思いの花を集めましょう」



今日は生け花の授業。
そのため、みんなは花を探し始めた。


生け花かぁ…
私はくノ一なのにあまり女の子らしくないから、こういう授業より手裏剣術の方が好きだった。


でも真面目にやらない訳にはいかない、と隅の方で花を探す。


「あ、この花可愛い」


手に取った花は綺麗なピンク色で、他にも黄色や紫といった色んな色があった。

このピンクは、サクラの髪の色みたい。

この花を主材にしようと決め、他の花を探しに行こうとすると遠くの方からいのちゃんが歩いてくるのが見えた。


その後ろには、いのちゃんを急いで追いかけるサクラの姿があった。




「いのちゃーん!待ってー!…あ!!」


何かに躓いてバタッと転んでしまったサクラに、いのが振り返る。


「もー!ドジねぇ」


サクラはいのに起こしてもらうと、二人で花を探し始めた。



「…なんの花にしようかなぁ」



自分も再び配材を探そうとしていると、後ろから甲高い聞き覚えのある声がした。



「あらぁ?今日はデコリンちゃんといないのねぇ」


「一人で寂しそー!」


「仲間に入れてあげようかー?」


くすくす笑う三人組は、サクラをいじめていた女子だった。
珍しく一人でいる私を面白がって、絡みにきたのだろう。


「一人で結構です」


彼女たちに抵抗するように顔を背けると、再び作業に戻った。
それが気に食わなかったようで、突然背中を押され、私は前のめりに倒れてしまった。


「ふんっいい気味だわ」


「あみちゃん、こんな奴ほっとこうよ」


「それよりあっち見て…あいつがいるよ」


何か見つけたのか、倒れた私に目もくれずに行ってしまった。
本当に、ガキっぽい。
ああいう人たちには無理に反抗しない方がいい。


起き上がりながら服についてしまった土や葉っぱを払い落とすと、またさっきの奴らの甲高い声が聞こえた。




「今日はやけに楽しそうねぇデコリーンちゃん!あんた最近色気付いてんじゃない?あんまり調子乗ってんじゃないわよ!」


今度はサクラを見つけたのか、取り巻きたちがサクラの額を小突く。


「…また、アイツら…!!」


サクラの元へ行こうと足が勝手に動くが、ふと何かを思い出すとその足を止める。


あの日、私はサクラの手を振り払ってしまった。


必死に言い訳をしたけど、あの時のサクラはひどく傷ついた顔をしていて、自分がそうさせてしまったんだと今でも後悔している。


その日からなんだか気まずくなってしまって、今日のくノ一クラスは一人で行動しているという訳だ。


だからと言ってこのままアイツらを見逃すわけにはいかない。
止めた足をもう一度踏み出そうとした時、取り巻きのリーダーあみちゃんの口にトリカブトの花が飛んできた。


「ふがっ…!?」


「「あ、あみちゃん!!」」


「ごーめーん。あんまり綺麗な寸胴なんで花瓶と間違えて生けちゃったー!」


「この…いーのー!!」


「忍花 トリカブト。毒性は弱いけど有毒だから、はやく吐き出した方がいいわよー?」


・・・・・・・。


「「「きゃああああ!!せんせー!!」」」



ぺろっと舌を出していたずら顔で笑った顔をサクラに向けたいの。
サクラはすごい、とでも言いたげな顔でいのを見つめていた。


トリカブトを使った見事な手裏剣術によっていじめっ子を撃退するのを見た私は、踏み出した足を元に戻した。



サクラには…
もう、守ってくれる人がいる。


私よりも強くて

勇敢で

優しい彼女は、とても嫌いになれるような人ではなかった。




「ねぇ、いのちゃん。なんで、私なんかにこのリボンをくれたの…?」


「ふふ、それはねーあんたが、蕾のまま枯れちゃうのは勿体ないと思ってねー」




私には、サクラの蕾を咲かせることはできない。




「花は咲かなきゃ、意味ないでしょ」




こんなに綺麗な言葉で、サクラを慰めることなんてできない。




「もしかしたらそれが…コスモスよりも綺麗な花かもしれないしね」





いのはきっと、本当の意味でサクラを救ったんだ。



私に足りなかったのは、すごい手裏剣術でも、サクラを守る力でもない。



私には、言葉が足りなかった。



サクラはいのに憧れている。
私も、いのみたいにサクラを笑顔にできるヒーローになりたかった。



でももう、遅い。
私とサクラの間には小さな亀裂が生まれてしまった。






このまま私といても、サクラを蕾のまま枯らしてしまう。





そう思った私は、静かに二人のそばを離れた。






〈幼少期〉end

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