アカデミー【決別】(1)
強い日差しが部屋に差し込んでいることに気付き、むくりと起き上がる。
「…昨日、カーテン閉め忘れた」
急いでカーテンを閉め、フードの付いた服へと着替える。
どうやら、能力は意識すれば使えるようにはなったみたい。
昨日、自分の力について知り、理解したからだろうか。
とにかく、なんでもぷかぷか浮いてしまわなくてよかった…
母たちのいる居間へ向かい、朝食を食べる。
いつもと同じように接してくれる父と母の様子を見て安心した。
「ヒナ。帰ったら、力を使いこなせるように父さんと特訓だからな」
「はーい。私、頑張るよ。それじゃあ、いってきます」
外に出れば今日は強い日差しで、フードだけでは頼りないので日傘を持っていく事にした。
昨日不思議な事があったのに…
木ノ葉の里は何も変わっていなくて安心した。
「サクラ!おはよう!」
昨日はサクラと帰れなかったから、なんだか久しぶりに会うような感じがする。
つい嬉しくて、いつもより少し元気よく挨拶をする。
「おはよう!今日もいい天気だね!」
それに応えるように、サクラも明るく返事をしてくれた。
なんだか今日は、いつもと違うような…
「私にはちょっと、辛いけどね」
「あ…そっか、ごめんね…」
彼女には、自分の体質の事を話していた。
毎日長袖にフードを被って過ごし、日傘を差していれば自ずと話さなくてはいけなかったのだけれど。
それでもサクラは何も言わず受け止め、私を日陰に誘導してくれたり、長時間外に当たらないように屋内で遊んだり、サクラなりに気を遣ってくれた。
それよりも…今日はサクラの額が見えていることに気が付いた。
「…そのリボン、どうしたの?」
昨日までなかったサクラの頭には可愛らしく赤いリボンがくくられていて、いつも恥ずかしそうに前髪で隠していた額は綺麗に出されていた。
「これね、昨日いのちゃんがくれたの。こっちの方が、可愛いって言ってくれて…」
「そうなんだ…すごく、似合ってるよ」
「そ、そうかな?ありがとう!それでね、その後いのちゃんの友達とも遊んだの。いのちゃんって、友達がたくさんいるんだよ!」
昨日のことを楽しそうに話すサクラ。
サクラに友達ができたことは、私にとっても嬉しいことだった。
「それでね、いのちゃんがね…」
アカデミーに着くまで昨日の話をたくさんしてくれた。
嬉しそうに話す彼女に、私も笑顔で応える。
だけど、何故だかは分からないけど
胸を刺す痛みが、どうしても消えなかった。
***
午前の授業が終わると、教室を出てサクラのクラスに向かう。
お昼はいつもサクラと一緒なので、今日も同じように教室へと入った。
「サクラ、お昼食べよう」
「うん!私もうお腹ぺこぺこ」
サクラの隣の席を借り、お弁当を食べながら今日の授業について話す。
「今日は手裏剣の授業だったんだけど…私全然だめで…」
「サクラは頭が良いけど、そういうのは苦手だよね」
「うっ…ヒナはいいな…頭も良いし、手裏剣も上手だし…」
「お父さんと先に特訓してたから出来るだけだよ。私も最初は中々的に当たらなくて、お父さんによく叱られてたなぁ」
そんな他愛のない会話を続けていると、サクラが私の話を聞きながらある一点を見つめている事に気が付いた。
「……サクラ?」
「えっあ、ごめんね!私、ぼーっとしてて」
つい気になってしまい、サクラの視線の先を追う。
その先には、あの時サクラと一緒にいた山中いのちゃんがいた。
周りにはたくさんの友達がいて、みんなでお昼を食べている。
「サクラ、いのちゃん見てたでしょ」
「え、あ…バレちゃった…?」
「本当に友達たくさんいるんだね」
「いのちゃんはすごいの!お家がお花屋さんで、色んな花の名前を知ってるし、ヒナみたいに頭も良いんだよ!」
今日の朝だけでは話足りなかったようで、サクラは目を輝かせながらいのちゃんの話をしだした。
また、胸の痛みが消えない。
サクラがこんなに嬉しそうなのに、私はなぜこんなにも、胸が痛むのだろうか。
サクラの話を頷きながら聞いていると昼休憩が終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。
「私もう戻るね。また後で!」
「うん!じゃあね!」
席を立ち、急いで教室へと戻った。
***
午後の授業も終わり、サクラの待つ教室へと向かう。
人混みを掻き分けサクラを探すと、誰かと話しているようだった。
その中には、あのいのちゃんの姿もあった。
「…サクラ!」
「あ、ヒナ!今ヒナのクラスに行こうと思ったんだけど…いのちゃん達に誘われて」
「あー!サクラの友達のヒナ?私、山中いのっていうの。サクラから話は聞いてるわ!よかったらヒナも一緒にどう?」
サクラはいのちゃんに誘われて公園に遊びに行くらしく、彼女は私も誘ってくれた。
「そ、そうだよ!ヒナも一緒に…!」
サクラは私の手を取る。
しかし私は、その手を振り払ってしまった。
「…えっ?」
サクラが驚いた顔をしている。
ごめん。ごめんねサクラ。
「そ、そういえば…先生に呼ばれてるんだった!ごめんね、誘ってくれて…ありがとう」
精一杯の笑顔を顔面に張り付けてそう言うと、教室を出た。
別に先生に呼ばれてなんかいない。
ただ…
ただ、いのちゃんの隣にいるサクラが
いのちゃんを見つめるサクラが
遠くにいるように感じたんだ。
胸に刺さるような痛みは未だに消えない。
私が一年も掛けて作ったサクラとの絆を、あっさり取られてしまうなんて。
悔しくて、仕方がなかったんだ。
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