ふぁごっと | ナノ
04


『ン……』

あれ…?ここ…

光を感じて私は目覚めた。ひびが入り薄汚れた窓から光が射し込んで私に当たっている。外では鳥が鳴いてる。紛れもなく朝だ。

痛っ…。片目が開かない。昨日殴られたんだっけ…。病院行かないと駄目かなぁ?


『私……あ』

変だな、スーツ羽織ってるけどこれ私のじゃない……


…なんで?


『……――ッッ!!!!』

記憶が鮮明に蘇る。自分のした行動を思い返すとゾッとした。


私は見知らぬ…いや初対面ではないけど、兎に角名前も得体も知れない男にすがり付いて泣きじゃくった末一夜を共にしたのだ。


『ぎゃっ!?違うッッ!!!!』


あの人殺人犯だぁッッ…!!!!!!


芋づる式に記憶がホイホイ。一人で焦って狼狽えてソファーの上で体育座り。慌てて自分の身体を隅々までチェックしたが襲われたような痕跡は残っていなかった。


『あ…?』

間抜けな声を出した私の視線の先には相席に置かれた女性用の衣類だった。この有り様の私からすればもしこれが着れれば非常にありがたい状況にあるわけであって…


……まさかあのあの人の私服じゃないよね。下着まで…。

今の格好よりずっとマシだと思って私は置かれてあった服に着替えた。もし万が一殺人犯さんの私服だったらごめんなさいと呟きながら。


『………』

サイズは恐ろしいほどぴったりだ。それにしたって危なかった。こんなボロボロの格好でよく襲われなかったものだな、と。


『む……』

…さぁ、まず一段落したところでどうしよう…。

仮に私をレイプ魔から助けてくれたのが真実だったとしても、彼が殺人犯には変わりはない。警察にこのアジトらしき住所を調べて通報するべきではないだろうか…?


『あ、』

――「俺の知り合いに警察官がいるから…」


私は頭を抱えて唸る。言っても無駄な感じ?あの人は一体何なのか?警察に知り合いがいる?警察がグルなのか?あの人が合法的に殺人を犯しているのか?まさか…そんなのありえない…はず……

羽織っていたスーツをハンガーが見当たらなかったので変な箇所にシワがつかないように畳んだ。
私は光に照らされて舞う埃をぼんやりと眺める。

様々な思考が飛び交う中、じっくり時間を掛けて導き出した結論は……


『帰ろう…』

何も見なかったことにして。そもそも昨日は仕事上の都合で仕方なく初めてあの道を通ったのだ。今後あの周辺を通るのを避け、夜中外出を控えれば彼と出会す可能性はない。人目につく都会で白昼堂々殺人が出来るほど日本は甘くない。出来たとしても即逮捕だ。

よし、そうと決めたらそうしよう。私を担いで来れた道のりだ。私の知っている場所へは彷徨いていれば着くだろうしわからなかったら誰かに訊けばいい。

彼が戻ってくる前にさよならさせていただこうとしよう。それが一番安全だ。私の素性も知られているわけではあるまい。

あの人は態々あの場にあったある程度の荷物も一緒に持ってきてくれたらしい。私は前着ていた原型があやふやなリクルートスーツのポケットから少しくしゃくしゃになっている紙を取り出し、偶然その辺に転がっていたインク切れに近い状態のボールペンを拾ってせめてもの感謝の気持ちを示すため、メッセージを残してこの場を去ることにした。


―――助けてくれてありがとうございました。お礼はまたいつか。

とは書きつつも…もちろん失礼ながら私に『いつか』の予定はない。


『うわぁ〜ッ!!よかったぁ…バックの中身も全部無事だぁ…!!』

私は早々とその場から、なんとしても主が帰ってくる前に逃げ…立ち去ることにした。


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