ふぁごっと | ナノ
10
ポカポカしていて暖かい。昨日からよく眠れてなかったからなぁ…。
『……ンン、ん?』
あまりに心地好くて枕に顔を改めて埋めた。埋めた…?ん…?んん?
『――――っ!!!?』
叫びそうになったがなんとかして悲鳴を呑み込む。
枕じゃない。腕だ腕人の腕。目の前には胸板。視界いっぱいに広がる肌色。心地好いと感じたのは身体に回された彼のもう片方の腕。
乱雑に敷かれた私の布団に乱雑に掛けられた掛け布団。
頭上から掛かる吐息から察するに顔の距離はかなり近い。
ぴったりと寄り添ってはいるが互いに何も纏っていないのにも気がつく。限界だよ。もう恥ずかしくて爆発しそう。
一体何が起きたんだっ!?と慌てるがどうしたもこうしたも…覚えてないと言えば嘘になる。朧気ながら記憶はある。
『……』
恥ずかしながら私にはじっと固まる他ない。
―――トクン…トクン…
腕枕から伝わる規則正しく脈が波打つ。聞かざるをえない彼の心音と脈の音。しっとりと密着する肌は意外にも滑らか…
『……』
冷静に分析している場合でもないので、この体勢から脱出出来ないか慎重に動くことにしよう…
「ン…」
『へっ?わっ、!?』
微かばかりの動きで彼が反応し動いた。回されていた腕が顎を掴み、少々強引に上を向かされれば待っていたのは寝起きにしては少し濃い目で苦いキスだった。
終えるとまたぎゅっとさらに強く彼に抱きくるめられてしまい、どうしてこうなってしまったか今まで以上に恥ずかしい。
「…どうだった?」
ちょうど額辺りで震える喉仏。だいぶ眠たそうだが一応起きたらしい。
『ぇ…どうだったって…』
「他の男と同じ…?」
『いや、そんなことはないですけど……』
流れは同じにせよ、事実私に対する対応は優しかった…と思う…
ってどうしよう否定しないとかこれじゃあまるで私が淫乱女みたいだ。
もう既に実際ビッチって思われてるのかなぁ…?
「俺はサイコーに良かったぜ〜…?」
彼から発せられる猫撫で声は寝起きのせいもあってか情事の際より格段甘く感じられる。
「…名前は?」
『…良かったと思います』
顔から火が出るとはまさにこのことで、何を言ってんだろと布団をまる被りしたくなった。いっそもう爆死したい。
彼は答えにただ低く笑った。
無意識だが声を聞いたせいか一部記憶が思い返される。
―――――――――――
「伸二だよ…」
―――――――――――
声を掛ければ決まってそう言われた。少し上がった息や掠れ気味の声が色っぽくて、そう囁かれても言えず、呼べと言われても頑なに呼ぶことを拒んだ。
『……』
恋人なら嬉しい恥じらい。
けどこの人とはこれだけの関係。寧ろ関係と呼べるのかわからないほど軽薄な繋がり。
たった今お礼も済んだことだしこれっきりの可能性だって十分だ。
これ以上思い返してもどうしようもない。いつか憧れた甘い恋が出来るわけもなく。
記憶を振り払うように声を発した。
『あの…』
「……」
『すみませんっ…』
「……」
『伸二さんっ…』
「ン〜…?」
『離してもらえませんか?』
「…なんで?」
『水飲みたいんです…』
「あー…」
案外あっさり解放してもらえて、こうなるなら最初から言ってればよかった。
『い゛っ!?!?』
そう思い身動ぎした瞬間腰を中心的に身体中に鈍痛。
「あぁ、ワリィ…。床でヤったからな」
『えー…!?』
「敷いたの名前が寝た後」
目を擦り、寝惚け眼で表情が柔らかく見える彼は不覚にもとても色っぽく見える。
慌てて目を反らして退こうにも身体が駄目で。
『痛ぁい…』
「俺が持ってきてやるよ」
『わ゛ぁっ!?動かないでくださいっ!!!!』
「ッ…、名前ちゃんは叫ぶの好きねー…」
『そうだ服っ…私の服どこですか?』
気だるそうに彼は腕を持ち上げてあちこち指差す。どうしたらこうに散らばるのか。
対して彼の服は畳んでないにせよまとめて布団の真横にある。
「寝てろ」
『わわかりました、じゃあ、あのっ、シャツ貸してください!』
「彼シャツ…?いいねぇ〜…俺そ〜ゆ〜の好きよ〜〜…」
『違いますぎゃあっ!?』
服を着る気がないなら彼のシャツを羽織って服を回収しようと思ったのだが、それより先になんの抵抗なしに彼は布団から出た。なんでこうなっちゃうかな…
目を瞑って何も見ないが一番。
水道から水をコップに注ぐ音が聞こえる。一杯は恐らく彼が飲んで、もう一杯は私の為に。
「さっきはもォ〜っと恥ずかしいことしてたのにさ」
『ひゃっ』
「ほら」
頬に突然触れた冷たいグラス。そして投げられた彼のシャツ。
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