「飯」
勝手に上がり込んできておいていきなり何を言うか。ボロボロのアパートに不釣り合いなブランドもので全身を固めて弖虎はやって来た。
『まだだよ。これから』
「じゃあ待ってるわ」
狭苦しい台所で狭苦しい居間に弖虎がごろんと横になる音を聞き、何かと楽なカレーを作ろうと、まな板に具材を乗せて包丁を握る。
『うへぁっ!?』
「なに作るの?」
二本の腕が腰からにゅっと生えてホールドされ、肩に顎が乗り人の形をした大型犬に後ろから飛び乗られた。
『危ないから向こうで待ってて!』
「んー…やだ」
なんともあざといぶりっ子を演じ彼は肩にすりすりと顔を埋める、可愛くない…わけがない。少々むかっ腹が立つが大人しく顔を乗せたまま動かなくなったので料理を再開した。
『………弖虎』
「ンー?」
『どうしたのこの腕の傷…?』
「あー」
服の柄だと思っていたのは滲んだ血が変色してできたもので、色白の肌は錆び付いた刃物で切られたかのように抉れ、ギザギザの傷の一部は裾からはみ出している、かなり深く痛々しい。
「こけた」
『どうやって?』
「派手に」
『…ご飯作るのやめた』
「マジかよ…」
『……』
「名前…」
これが初めてじゃない、何度あろうと原因を言わずおどける彼を見るのも、声を聞くのも辛かった。
「名前こっち向いて」
『……』
包丁をまな板に置くと弖虎の腕に180度体の向きを回されて向き合った。
静かに彼の胸に収まって、生意気な彼のしたいように抱き締められ、私も抱き返す。
胸に耳を当てると少し高い位置から鼓動が聞こえる。餓鬼のくせにやることは一人前だ。
「俺腹へったよ」
『消毒して包帯巻いてからだよ』
「はいはいありがとう」
====ふぁっきん りとる ぼーい====
『じゃあ消毒するね』
「優しくね?優しくしてよ?あははっ!!お前初めて抱いたとkィぃぃッッテェなぁ!!!!!!!?」
☆おしまい☆
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