星のおじさま | ナノ

24
「名前、8番に二皿、11番席にAセットだ。わかるか?右奥と入り口左手前だぞ?」

『は、はい!』

昼間、少女は一人ウェイトレスの衣裳を纏って客の賑わう店内を回っていた。トレンチいっぱいに皿を乗せ、その混みようはさほど広くないフロアでも混雑時には体が3つほど欲しくなるほどだった。

「お姉ちゃん水ちょうだい!」

『はっ、はい!ただいまっ!』

足を止める暇もなく客の声を拾い、調達が済めば大急ぎで冷やをトレンチに乗せて激走。

―――ガッ!

『あっ!?』

だが走りはじめて早々足元に嫌な当たりを感じた。
スローで見える世界で姿勢が前のめりになり、手元から離れていったトレンチの上のグラスがくるりと宙を舞う。

――――ガッシャァァンッ!!!!

倒れたときには全てが事後、何かに躓いた名前はばらまかれた皿とグラスを見て蒼ざめた。

「あーあーあーあー…」

『!』

不機嫌な声に顔を上げると、客である男のスラックスの太股部分は、水を掛けられたことにより大きな染みができてしまっていた。


「どーしてくれんだよコレェ…?」

『ご、ごめんなさいっ!!すみませんっ!!』

「ふざけんなよ!お前どうしてくれんだっ!?あぁっ!?」

男が名前の胸ぐらに掴み掛かり店内が凍りつく。

――――ガッ!
「!」

「いい加減にしな」

視界端から突然現れた手が名前を掴む男の手を掴む。

「…あ?」

「テメェが足出す瞬間見てたんだよ」

ギリギリと握られた腕が痛みに震えているのがわかった、耐えきれなくなった男が少女から手を離すと、解放された名前は腰が抜けて座り込んでしまう。
見上げた恩人の顔はわからないが、羽織っているジャケットの肩にはBSAAの文字。


「ここじゃあなんだ、外で話そうか?」

余裕な声色で話し掛け、柔らかな物腰は逆に突っ掛かった男を恐怖させた。
両者は実際に外へ向かい、ドアのベルを鳴らして店から出ていってしまう。

立ち上がれるようになった名前は騒ぎを立てたことをフロアの客に侘び、その間偶然裏口から外へ出ていて事態をしらなかったマスターに報告した。
幸い皆事を理解してくれ、誰一人名前を責める者はいなかったが
、彼女は大急ぎで掃除を済ませると一瞬でも彼の様子を見ようと店の外へ向かった。

―――カラン…

『わっ!?』

「っと!?」

ほぼ同タイミングでドアが開けれ、名前は目の前に差し迫った胸板によろめいた。服装は彼、出ていったと思っていたらもう入ってきた。


「騒がして悪かったね。はい、これ勘定。こっちはあいつの」

『…あ、あのっ、怪我は?』

「ケガ…?あぁ、ないない!」

『ごめんなさいっ…、お礼をさせてください。あなたの分は私が払っておきますっ』

「あははっ、いいよ、俺もちょうど出るところだったし、悪いのはあいつだし」

『これはいただけませんっ、お願いしますっ。私にお礼をさせてください…!』

少女に深々と頭を下げられた彼は困ったように笑った。しかし、ふと何か思い付いたような顔をする。


「今日仕事何時に終わる?」

『え…、…5時に終わりますっ』

「そのあと少し会えない?」

『だ、大丈夫です』

「そ。じゃあ迎えに来るよ。じゃあね」

『えっ、あっ…』

ごちそうさま、彼はそう言って名前の肩を軽く叩くとさらっと去っていってしまった。


「ねぇ!注文いい?」

『は、はい!!ただいま!!』


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